IP通信品質が劣化しそうな時に通信網を切替えて未然にロスを防ぐ発明 NECプラットフォームズ

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 IP網、PSTN(公衆交換電話通信網)、WiMax網を通じて音声通信(VoIP)を行う通信装置に関する発明です。IP網で通信を行っているときに、IP通信の品質が劣化する可能性が高い事象を検出すると、通信に用いる網をIP網から、検出した事象に応じてPSTN又はWiMax網のような他の通信網に切り替えます。

 これにより、IP通信の品質の劣化により音声通信品質が低下することが未然に回避されます。携帯電話やスマホに適用可能な発明です。

 特許第5801112号(特開2013-5386) NECプラットフォームズ株式会社
 出願日:2011年6月21日 登録日:2015年9月4日



 ※特許の本の紹介。
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通話品質が劣化することを未然に回避することができない

 最近の携帯電話やスマートフォンは、携帯電話網だけでなく、Wi-Fiを通じたIP網での通信や、WiMax網を通じた通信をする通信インタフェースをもっています。

 しかし、どのような場合にどの通信網を利用した通信を行うかについては規定がありません。この出願の明細書に記載されている先行技術として、IP通信品質が劣化したことを検知するとIP網からPSTNに切り替える技術が挙げられています。この先行技術では、IP通信品質が劣化したことを契機として切り替えが行われるので、通話品質が劣化することを未然に回避することができないという問題があると考えられます。

通信品質が劣化する可能性が高い事象を検出したら通信網を切り替え

 この発明では、通信品質が劣化する可能性が高い事象、より具体的には、気象に関する事象(例えば、大雨警報発令時、緊急地震速報発表時など)が生じたことを検出すると、IP網から、検出した事象について予め定められている通信網(例えば、大雨警報発令時はWiMax網、緊急地震速報発令時はPSTN)に切り替えます。

 これにより、IP通信品質が劣化しそうな時に、つまり、実際に劣化する前に通信網の切り替えが行われます。このように通話品質の劣化が未然に回避される効果があります。

(用語)
VoIP:Voice over Internet Protocol。音声を各種符号化方式で符号化および圧縮し、パケットに変換したものをIPネットワークで伝送する技術。
WiMax:Worldwide Interoperability for Microwave Access。無線通信技術の規格のひとつ。

【課題】
 IP回線を介したIP通信から適切な回線を介した通信へ確実に切り替え、IP通信中に通信品質が著しく低下したり、通信が切断されてしまうことを避けることが可能な通信装置、通信システムおよび通信方法を提供する。
【請求項1】
IP網を経由してIP通信を行うIP通信手段と、
公衆交換電話網を経由して公衆交換電話通信を行う公衆交換電話通信手段と、
WiMAX網を経由してWiMAX通信を行うWiMAX通信手段と、
前記IP通信の品質が劣化する可能性が高い特定事象を検出する特定事象検出手段と、
前記特定事象ごとに公衆交換電話通信またはWiMAX通信を指定する処理情報が登録された記憶手段と、
IP通信中に前記特定事象が検出された場合、該検出された特定事象に対応する処理情報を前記記憶手段から抽出し、該抽出した処理情報に基づいて前記IP通信から前記公衆交換電話通信または前記WiMAX通信へ変更する制御手段と、
を備える通信装置。

今日のみどころ

 従来技術における通信網の切り替えの契機は、「IP通話品質が劣化したことを検知したこと」であり、劣化した時点より後に切り替えがなされます。これに対して、本発明の技術では、「IP通話品質が劣化する可能性が高い特定事象を検知したこと」であり、劣化する時点より前です。

 小さな違いであるとも言えますが、技術としては異なるものであると認められています。このような技術の違いを認めて、積み重ねていくことで、大きな技術の進歩につながると思います。焦らずにこつこつと、小さなことを積み重ねていく戦略もとても重要です。