私は以前、通信機器メーカのエンジニア(研究開発職)をしていまして、自分のアイデアでいくつか特許を成立させた経験があります。いまは特許事務所でクライアントのアイデアを特許化する仕事をしています。
特許のネタを探している人は「なんかいい特許ネタないかな」と思ってますよね。。私も研究開発職のときにはよく悩んでいました。
こんな悩みは昔からあるもので、アイデアの発想法というものもあります。私もエンジニアのときに会社の教育で習いましたが、実際には使いにくかったです。
そこで、技術者視点での特許ネタの考える時のおススメの方法について、私の経験も交えて紹介します。この記事を読むと、特許のネタの出し方がわかります。
特許のノルマ達成、技術者(発明者)にも知財にも
現在、特許の多くは企業で生まれています。
企業では多くの特許を得るために、発明者となる技術者に特許のノルマが課されていることがあります。半期で1件とか、年間で2件というようなもの。
特許を管理する知財部門でも、技術者のアイデアを特許出願するノルマがあるところもあります。
なので、特許アイデアが自然に生まれるのに任せて特許出願するだけでなく、特許アイデアを生み出さないといけない、ひねり出さないといけない状況に置かれている人も多いと思います。
特許アイデアの発想法で有名なTRIZ
特許アイデアの発想法で有名なものに「TRIZ(トリーズ、トゥリーズ)」があります。TRIZは、既存の製品やアイデアを、分割する、組み合わせる、動かすなどすることで新しいアイデアを発想するような方法です。
TRIZは、問題解決の理論としてよく知られているものです。知財の仕事をしている人は、「TRIZ」という名前と簡単な説明を、基本知識として知っておく方がよいと思います。
このあたりの本をざっと読んでおけば概念はわかります。読んだ後は本棚においておいて必要な時に見れるようにしておきましょう。(私ももっていて、たまに見ています)
TRIZは知財目線で、使いづらい気がします
TRIZは、管理者目線というか、知財目線では、なんとなくうまくいきそうな気がするんですよね。なんでもいいから新しいアイデアを作りたい、という場合は便利なのかもしれません。
でも、エンジニア、技術開発の当事者としては使いづらい気がします。エンジニアは、自身の目の前の課題を解決しようという方向で技術を考えています。なんでもいいのではないし、課題解決のためには必ずしも新しいものでなくてもいいはずです。
TRIZは、もともといろいろな分野で過去になされた発明、発想法を抽象化して作ったようなものなので、実際にそのまま技術開発の業務にあてはめることが難しいと思います。
TRIZは、どちらかというと、技術開発の現場ではなく、知財を作りたいという方向性でして、つまり知財目線での発想法と言えると思います。
そのため、TRIZの発想法は、エンジニアの課題解決の考え方となじまないので、TRIZは技術開発の現場から見ると使いづらいのだと、私は思います。
エンジニア視点で特許ネタを探す方法「人より早く課題を見つける」
そこで、実際に私がエンジニアのときにやっていた、特許ネタを探す方法を紹介します。
それは、人より早く課題を見つけるということを目指す方法です。
エンジニアは、すでに担当しているプロジェクトが決まっていて、特許ネタを生みたい製品、技術が決まっていることが多いと思います。そこで、その延長で新しい特許ネタを探す方法を説明します。
実際に少し先の場所に立つ
他の人がまだ見つけていない特許ネタ(特許アイデア)を見つけるには、他の人と同じ情報のなかにいるだけでは難しいと思います。
他の人と同じ場所にいるだけでは、同じ風景しか見えない。
そこで、人が想像しているだけでまだ実際に使っていないものを、他人より早く実際に使うこと。そして、実際に使って課題を見つけるという戦略が有効です。
実際に、他の人より少し先の場所に立って、その風景を見に行くということです。
最新の製品やハイスペックな機能を使って問題に気付く
具体的にいえば、最新の製品を使ってみる、必要以上にハイスペックな製品や機能を使ってみる、最新な製品やハイスペックな製品を既存の製品と一緒に使ってみる。このようにして、ほかの人がまだやったことのないことをやってみます。そして、実際にやったからこそ気づく不便なところや問題点を洗い出します。
現状の製品や技術を少し先に進めるとどうなるか、想像で語る人は多いと思います。例えば、ガラケーばかりの時代にスマホを想像する。スマホからタブレットを想像する。小さめのタブレットから、大きなタブレットを想像する。ということです。ある程度はできてしまうので、できた気になってしまいます。
しかし、実際に使ってみると、想像していたときには気づかなかったことに気づくことが多いんです。そもそも想像どおりにならないこともよくあります。私もエンジニア時代によく実感しました。
そのようなことが課題、特許でいう「解決すべき課題」になります。つまり、実際に少し先の場所に立つための課題や、実際に少し先の場所に立ったことによって見つかる課題を見つけるのです。
見つけた課題を普通に解決する方法を考える
課題を見つけたら、次に、見つけた課題を解決する方法を考えます。
この解決方法は、エンジニア的に普通に考えて解決する方針でOKだと思います。その方法は、とっぴょうしもないアイデアである必要はありません。へんに複雑にするより、ストレートな解決方法がいいです。いわゆる普通のアイデアでOKです。
課題が新しければ、解決アイデア自体に新しさがなくても、その技術全体に新しさが認められる可能性があります。
例えば、こんなやり方があります。
- 既存製品では無条件に実行していた処理を、ある条件が成立したときだけ実行するようにすることで課題解決する。
- 既存製品では1つだけだったものを2つ(又は2つ以上)にすることで課題解決する。
- 既存製品で問題が起きるケースにならないように、それをガードする処理や物を追加することで問題を回避する。などです。
その技術の裏づけとして、解決の効果がわかるデータなどの結果があるとなおよいです。
高価なシミュレータを使用することを考えがちですが、簡単な計算で見積もるだけでもよいと思います。いろいろな条件での計算をするならエクセルのような表計算ソフトを活用するのもよいし、perlやrubyなどのスクリプトで簡単に計算させてもよいと思います。手近にあるものを上手に使えばいろいろできます。
そして、アイデアをうまく表現することも大事なので弁理士(特許事務所)の協力を得て出願します。出願書類を上手に作り、上手な中間処理(審査の対応)をすれば、特許になる可能性が格段に上がります。
課題と解決方法の例は、当サイトにたくさんあります
実際に特許になったアイデアは、特許公報として公開されていて誰でも見ることができます。
そして当サイトでは、特許公報の中から私が選んだものについて、課題と解決方法をわかりやすく紹介しています。どのくらいのシンプルさ又は複雑さで特許がとれるのか、特許の実物をたくさん見ることができます。
このような経験を繰り返すと、どれくらいの工夫をすれば特許をとれるのか、どんなアイデアが特許をとれるのか、なんとなく感覚としてわかるようになります。
今日のみどころ
特許のネタを出したり、探したりするには、まずTRIZのような有名な方法を知識として知っておくことが重要です。
それを知ったうえで、「人より早く課題を見つける」という、実際に発明を生み出せる方法も使っていきましょう。あなたの特許のノルマ達成に役立ててください!