無線メッシュネットワークで移動基地局により通信障害を回避する発明 セコム

 無線メッシュネットワークでの通信障害により通信速度が低下する問題を解決する発明です。

 この発明の無線メッシュネットワークでは、平常時の通信量が大きい位置に移動基地局を派遣し、通信速度の低下を回避します。

 特許第5905771号 セコム株式会社
 出願日:2012年5月14日 登録日:2016年3月25日



 ※特許の本の紹介。
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無線メッシュネットワークでの通信障害により通信速度が低下する問題

 無線通信する端末同士で通信パケットを転送することで、アクセスポイント(基地局)がなくても無線通信ができる無線メッシュネットワークがあります。無線メッシュネットワークの端末は、通信パケットを転送するための経路表を保有し、常に新しい状態を維持しています。

 無線メッシュネットワークで通信障害が発生すると、障害箇所を迂回するように経路表を更新して、新しい経路に切り替えます。

 無線メッシュネットワークを広域に設置した場合に、その複数個所で通信障害が発生すると、特定の箇所に経路が集中し、そこだけ通信量が増えて通信速度が低下するなどの問題が生じます。

平常時の通信量が大きい位置に移動基地局を派遣

 この発明では、無線メッシュネットワークで通信障害が発生したときに適切な位置に移動基地局を派遣します。具体例として、車両や船舶などに搭載された通信端末で無線メッシュネットワークが構築されており、移動基地局を搭載した飛行船を派遣します。

 移動基地局を派遣する位置は、平常時の通信量によって決定されます。例えば、平常時に1時間の通信量を計測して「基準値」として保有しておきます。そして、近くで通信障害が起きた端末のうち、基準値が最も高い通信端末の近くに移動基地局を派遣します。

 このようにすることで、通信障害が発生したときに、平常時に通信量が多い位置に移動基地局が派遣されます。そして、移動基地局が通信を転送することで、通信の集中による通信速度の低下を防ぐことができます。

【課題】
大規模災害などにより無線メッシュネットワークに通信障害が生じるような場合に、これを効率的に解消できる通信障害支援システムの提供を目的とする。
【請求項1】
 無線通信部を備えてそれぞれ異なる監視区域に配置される複数の監視機器間が無線リンクで接続され、相互に監視情報が転送可能に形成された無線メッシュネットワークに関する通信障害支援システムであって、
 少なくとも一つの前記監視機器と接続される通信部を備えて前記無線メッシュネットワークに接続される監視センタと、無線通信部を備えて前記監視センタから指示された位置において前記監視機器間の監視情報を転送する移動基地局とを具備し、
 前記監視センタは、
 前記各監視機器の位置情報及び各監視機器間の無線リンクにより確立した経路を経路情報として記憶する経路記憶部と、
 前記各監視機器ごとに転送トラフィック量の基準値を記憶する通信基準値記憶部と、
 前記経路情報に記憶した経路における経路障害を判定する障害判定部と、
 前記所定数以上の経路障害が判定されたとき、該障害が発生した経路の中で前記転送トラフィック量の基準値が高い監視機器の位置情報を前記移動基地局の派遣ポイントとして決定する支援位置決定部と、
 を備え、前記決定した派遣ポイントを前記移動基地局に送信することを特徴とした通信障害支援システム。

今日のみどころ

 無線メッシュネットワークでの通信速度の低下を解消するための技術の開発は以前から行われていますが、その多くはルーティングプロトコルのパラメータや通信タイミングの変更に関するものだったと思います。

 この発明では、無線メッシュネットワークを構成する端末以外の「移動基地局」が派遣される点がおもしろい点です。実際にサービス提供をするときの問題を解決しようとすると、従来の研究では検討されていなかった課題が出てくるものです。従来技術では解決できなかった新しい課題を発見して解決方法を検討することが新しい発明につながります。