フロー単位で別の通信回線に移動させてオーバフローを回避する特許発明 ATR

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 複数の通信回線を同時並行的に使用して無線通信する移動端末装置に関する発明です。

 複数の通信回線(経路)のいずれかがオーバフローした(送信側が送信したい送信レートが利用可能な帯域を超えた)ときに、この通信回線を通るフローを別の通信回線に移動させることでオーバフローを回避します。

 特許第5720007号(特開2012-175563) 株式会社国際電気通信基礎技術研究所
 出願日:2011年2月23日 登録日:2015年4月3日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

従来、トランスポート層以上でのスループットが低下

 従来、通信回線のスループットを向上させるために、複数の通信回線を使用して通信する技術があります。

 しかし、異種の通信回線を跨いだリンクを集約することが想定されていない、又は、パケットの到着順の入れ替わりによりトランスポート層以上でのスループットが低下してしまうという問題がありました。

通信回線がオーバフローすると別の通信回線にフローを移動

 この発明では、通信端末は、例えばWi-fi、WiMax、3Gというような異種の通信回線を同時並行的に用いて通信相手と通信することを前提としています。上記の複数の通信回線を用いて無線通信しているときに、ある通信回線でオーバフローが発生したら、利用可能帯域が最小である通信リンクの利用可能帯域を増加させるように、別の通信リンクにフローを割り振ります。

 これにより、利用可能帯域が最小である通信リンクに余裕を生み、トラフィック量の変動による輻輳に対して耐性を持たせます。つまり、トラフィック量の変動があってもパケットロスが生じにくいようにします。

(用語)
WiFi(ワイファイ):Wi-Fi Allianceによって認定された、無線LANの規格。
WiMax(ワイマックス):Worldwide Interoperability for Microwave Access 無線通信技術の規格のひとつである。IEEE 802.16a及びIEEE 802.16dの両規格を整理統合したIEEE 802.16-2004規格。
3G:国際電気通信連合 (ITU) が定める「IMT-2000」 (International Mobile Telecommunication 2000) 規格に準拠した通信システムのこと。

【課題】
トラフィック量の変動による輻輳の発生に耐性を持つ移動端末装置を提供する。
【請求項1】
 各々が基地局を介して通信を行う複数の無線通信器と、
 ネットワーク上に設置された通信装置と前記複数の無線通信器との間の通信を制御する制御装置とを備え、
 前記制御装置は、前記通信装置から前記基地局を介して各無線通信器まで到るネットワーク上のパスであり、かつ、前記通信装置から前記無線通信器への方向と前記無線通信器から前記通信装置への方向とを区別するパスを経路として定義し、前記経路上におけるトラフィックの流れをフローとして定義した場合、前記フローが通っている全ての経路の容量と、前記全ての経路の利用可能帯域とを検出し、前記全ての経路のうちのいずれかの経路の容量がオーバーしたとき、前記全ての経路の利用可能帯域のうちの最小値からなる前記容量がオーバーした経路の利用可能領域が増加するように、前記容量がオーバーした経路を通るフローを別の経路へ移動させる、移動端末装置。

今日のみどころ

 仮に、複数の通信回線のうちのある通信回線でオーバフローが発生した場合に、オーバーフローが発生した通信回線の利用可能帯域を増加させる、ということだったら普通の発想だと思います。この発明では、上記場合に、利用可能帯域が最小である通信回線を流れているフローを別の通信回線に移します。利用可能帯域が最小である通信回線で通信ロスが発生しやすい状況であると考えられるので、この通信ロスが発生しやすい通信回線での輻輳に対する耐性を上げることで、全体としてトラフィック量の変動に対する耐性が上がるという効果を発揮すると考えられます。

 全体の中で弱い部分を発見し、その弱い部分を強くすることで全体を強くするという考えです。このような考え方は、別な分野にも応用できそうです。