省電力無線LAN端末の通信遅延を抑制するアクセスポイントの発明 サイレックス・テクノロジー

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 無線LANのアクセスポイントに関する発明です。このアクセスポイントは、無線端末の省電力状態に影響を与えるDTIM間隔を制御します。具体的には、ある無線端末から他の無線端末へのARPリプライを転送した後にDTIM間隔を短くし、その後、長くします。

 これにより、無線端末あての通信が発生する可能性が高い期間にDTIM間隔を短くすることができ、無線端末がデータを受信する際の遅延を抑制することができます。

 特許第5938831号(特開2014-49834) サイレックス・テクノロジー株式会社
 出願日:2012年8月30日 登録日:2016年5月27日



 ※特許の本の紹介。
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無線端末が省電力モードだとデータ受信に遅延が生ずる問題

 無線端末の省電力モードが規定されている無線LANの通信規格(例えば、IEEE802.11シリーズの無線LAN, Wi-Fi)があります。このような無線LANでは、アクセスポイントは定期的(例えば100msecごと)にビーコンを送信します。また、アクセスポイントは、無線端末あてのデータを保有している場合には、そのことを示すDTIMビーコンを送信します。DTIMビーコンの頻度はDTIM間隔により定められています。無線端末は、省電力モードでは、DTIM間隔、つまり、ビーコン間隔に基づく時間長で省電力状態と稼動状態とを切り替えます。

 アクセスポイントがDTIMビーコンを送信するときに無線端末が省電力状態であると、無線端末はDTIMビーコンを受信することができず、その結果、無線端末が自身あてのデータを受信することができない事態になります。この場合、その後に送信されるDTIMビーコンを無線端末が稼動状態で受信したあとに無線端末が自身あてのデータを受信することになります。

 このような状況だと、無線端末の消費電力を削減できる代わりに、無線端末がデータを受信するのに遅延が発生するという問題があります。

APがARPリプライを転送後にDTIM間隔を短く、その後、長くする

 この発明のアクセスポイントは、DTIM間隔を調整することにより、無線端末がデータを受信するのに発生する遅延を解消します。具体的には、無線端末からのARPリクエストに対する応答(ARPレスポンス、ARPリプライ)を送信した後にDTIM間隔を短く変更し、その所定時間経過後にDTIM間隔を長く変更します。また、データ通信が実際にあるか否かにかかわらず、データ発生があると擬制して後続データが存在する通知(例えば、MoreDataビット)を無線端末に送信することで、無線端末を稼動状態に維持します。

 ARPリクエストに対する応答を送信した後には、ARP解決されたIPアドレスを用いたIP通信が発生する可能性が高いと想定されるので、そのIP通信が発生する可能性が高い期間にDTIM間隔を短くしています。これにより、無線端末がデータを受信するのに発生する遅延を小さくすることができます。なお、DTIM間隔を短くすると、長い場合よりも消費電力の削減効果は小さくなると考えられます。

【課題】
省電力ステーションを自身に接続している無線子機として擁するアクセスポイントであって,省電力ステーションの消費電力を低減しつつも遅延の少ない無線通信を行うことのできるアクセスポイントを提供する。
【請求項1】
 無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,
 前記所定の時間間隔を変更する変更手段と,
 前記変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,
 前記指示手段は,
 自身に接続している無線ステーションから送信されたARPリクエストに対する応答(ARPレスポンス)を当該無線ステーションに応答後,データ通信の存在の有無にかかわらず,データ発生を擬制して報知し,かつ前記所定の時間間隔を,当該応答前の時間間隔(t4)よりも短い時間間隔(t5)に変更し,
 その後,所定時間経過後,前記所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t5)よりも長い時間間隔(t6)に変更する,
 旨の指示をする,無線アクセスポイント。

今日のみどころ

 消費電力の低減をする一方で通信遅延が増大するというトレードオフを解決し、消費電力の低減と遅延の増大の抑制との両立をする発明といえます。このようなトレードオフは、いろいろな通信レイヤ又は通信方法で発生しますが、この発明は、DTIM間隔を調整することで上記トレードオフの解決を行うものです。

 問題に直面したときに、問題を整理していくと、解決方法が複数存在し、その複数の解決方法により得られる効果にトレードオフがあることが見えてくることがあります。このパターンになった場合、複数の解決方法のうちのどれをどのような場合に使うか、また、どのように切り替えるかを規定できれば発明になり得ます。このパターンは結構多いと思いますのでこのパターンに持ち込むことを考えてみてください。