複数の省電力APの一部を起動させなくしてさらに省電力化する発明 ATR NEC通信システム

 従来の省電力AP(アクセスポイント)を用いた無線通信システムでは、起動信号を受信した省電力AP全部が起動して消費電力が増大してしまう問題があります。この問題を解消する発明です。

 この発明のアクセスポイントは、省電力APの一部の起動を抑制します。これにより、無駄な消費電力の発生を抑制することができます。

 特許第5883968号 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 日本電気通信システム株式会社
 出願日:2015年3月24日 登録日:2016年2月12日



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複数の省電力AP全部が起動して消費電力が増大する問題

 通信がないときには省電力モード(スリープモード)で動作し、無線端末から起動用の特別な信号(ウェイクアップ信号)を受信したときに起動するアクセスポイントおよび無線通信システムがあります。無線端末から通信の信号を受信したアクセスポイントは、通信端末と無線で接続するとともに他のネットワークにも接続しており、通信端末を他のネットワークと通信させます。

 このような無線通信システムで複数の基地局が存在している場合でも、無線端末と通信を行うアクセスポイントはいずれか一台です。

 しかし、無線端末がウェイクアップ信号を送信すると、このウェイクアップ信号を複数の基地局それぞれが受信して起動してしまうことになります。すると、無線端末と通信を行うアクセスポイント以外のアクセスポイントは起動したのに通信に使われないことになり、電力が無駄になってしまうという問題があります。言い換えれば、必要以上に多くのアクセスポイントが起動してしまって消費電力が大きくなることが問題です。

省電力APの一部の起動を抑制することで低消費電力化

 この発明では、無線端末からのウェイクアップ信号を受信した基地局は、必ず起動するのではなく、ある確率(起動確率Z1)に従って起動するかしないかを決定します。具体的には無線端末から通信信号を受信したときに、0以上1未満の乱数を生成し、この乱数が起動確率以下であるときだけ起動するようにします。

 ここで、起動確率は、無線端末からの通信信号が届く範囲内の基地局のうち、起動させたい基地局の割合として指定できます。また、無線端末からの通信信号が届く範囲内の基地局の数は、自装置が受信したビーコンに含まれる送信元アドレスの数に、自装置にビーコンが到達する領域の面積と自装置からの通信信号が届く領域の面積との割合を乗じて求めることができます。

 これにより、通常なら起動信号によって起動する基地局のうちの一部を起動させなくします。起動する基地局の個数を減らすことで、無駄な消費電力の発生を抑制することができます。

【課題】
無線基地局の識別子またはESSIDが同じネットワークにおいて単一のウェイクアップ信号で複数の無線基地局が起動する無駄を抑制可能な無線基地局を提供する。
【請求項1】
 スリープ状態にある無線基地局を起動させるためのウェイクアップ信号を端末装置から受信する受信手段と、
 前記受信手段によって受信されたウェイクアップ信号が当該無線基地局を起動させることを示すか否かを判定する判定手段と、
 前記判定手段によって前記ウェイクアップ信号が当該無線基地局を起動させることを示すと判定されると、前記端末装置の通信範囲において前記端末装置の周囲に存在する複数の無線基地局のうち、起動する無線基地局の割合を示す起動確率で起動信号を生成する起動手段と、
 前記起動手段によって生成された起動信号に応じて起動する通信手段とを備える無線基地局。

今日のみどころ

 無線LANの基地局の省電力制御(スリープ制御)に関する発明です。原則的には、無線端末からのウェイクアップ信号を確実に基地局が受信して起動することが求められますが、複数の基地局が存在する場合に、無駄が発生してしまうという問題を解決しようとしています。

 一つ問題を解決すると、また別な問題や課題が発生することがよくあります。技術開発は、課題の発見と解決の繰り返しとよく言われます。人より早く課題を見つけることが、人より早く発明を完成させる第一歩です。すばらしい。