フロー単位のパケット到着予測に基づいて省電力&遅延抑制する発明 NEC通信システム

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 無線LAN(Wi-Fi)などのアクセスポイントのスリープ制御に関する発明です。

 アクセスポイントが転送するトラフィックを同一IPアドレスかつ同一ポート番号のパケット群であるフローの単位に分類し、フロー単位で到着時刻を予測し、その予測に基づいてスリープ状態を設定すべきか否かを決定します。

 スリープ状態になることによる消費電力低減効果と、スリープ状態から通常状態に遷移するのに要する時間分のトラフィック遅延の削減とを両立することをめざしています。

 特許第5804499号(特開2013-46130) 日本電気通信システム株式会社
 出願日:2011年8月23日 登録日:2015年9月11日



 ※特許の本の紹介。
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スリープすると消費電力が低減する一方で転送遅延が増加

 一般に、アクセスポイントがスリープ状態になると、消費電力を低減する効果があります。一方、スリープ状態からパケットの転送ができる通常状態に遷移するには所定の時間が必要です。この時間内には、別の通信装置を宛先とするパケットを受信してもパケットの受信をすることができない状態であり、パケットの転送遅延を発生させます。

 ここで、消費電力の削減量と、転送遅延の増大量とには一定のトレードオフの関係があります。

消費電力削減と転送遅延削減とのバランス

 そこで、本発明のアクセスポイントは、フローがランダムに生起する、つまり、ポアソン分布に従ってフローが到達すると仮定した上で、所定の関係にある消費電力の削減量と、転送遅延の増大量とをどの値に決定するかを閾値Δによって決定します。

 閾値Δは、消費電力の削減と転送遅延の維持(増大させない)とのどちらを重視するかを決定付けるパラメータとして用いられています。これにより、消費電力の削減と、転送遅延の削減とを、所望のバランスで実現することができます。

【課題】
起動時間が多く発生することによる、通信開始までの待ち時間の増大、すなわち、ネットワーク利用品質の低下を抑制する。
【請求項1】
予め設定された所定の目標値を記憶する目標値記憶部と、
複数の同じ通信端末装置の間で送受信されるとともに同じアプリケーションが利用するデータを格納するパケット群の単位であるフローの受信が停止されるフロー停止期間においてスリープ状態を設定した場合の消費電力削減率と、スリープ状態から稼働状態に復帰するのに要する起動時間の単位時間あたりの合計値と、平均フロー開始間隔と、フロー停止期間においてスリープ状態を設定した場合と設定しない場合の消費電力差分値との関係が示されるパラメータテーブルを記憶するパラメータテーブル記憶部と、
前記パラメータテーブルを参照して、パケットの受信時刻に基づいて算出した平均フロー開始間隔と前記目標値とに対応する消費電力差分値を特定し、特定された消費電力差分値を閾値として設定する閾値設定部と、
次のフローが開始される次フロー開始時刻までにおいてスリープ状態を設定した場合と設定しない場合の消費電力差分値と前記閾値との比較結果に基づいて、当該フロー停止期間において前記スリープ状態を設定すべきか否かについて判定するスリープ判定部と
を備えるデータ転送装置。

今日のみどころ

 PCやスマホのようなネットワーク端末は、ネットワークの末端に位置するので、自装置の都合で自由にスリープ状態に遷移することができますが、アクセスポイントのような中継装置は、通信相手のことを考慮してスリープ状態に遷移する必要があり、簡単ではありません。下手をすると、頻繁に状態遷移を繰り返すことで、通常状態を続けるよりも転送遅延を増大させる結果になることもあり得ます。

 最善を尽くすというよりは、消費電力の削減と、転送遅延の削減とのバランスをうまくとることで、何も対処しない場合より状況を良くするのがこの発明のポイントです。最善又は最適にするというより、何も対処しない場合より良くするという効果を狙うアプローチは、広い権利範囲を得るのに有効で、特許でよくあるパターンです。