MU-MIMOアンテナ指向性の重み係数を調整してデータ損失回避する発明 ATR

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 OFDMで変調された信号をMU-MIMO(マルチユーザMIMO)により無線通信する無線通信システムでのアンテナ指向性制御に関する発明です。

 OFDMのサブキャリアのチャネル応答行列から得られる2つの電力規格化係数のうち、その係数で総送信電力を規格化した場合に規格化後の総送信電力が大きくなる方の電力規格化係数による規格化を用いて基地局のアンテナの指向性を制御するための重み付け係数を算出します。

 特許第5802942号(特開2013-183394) 株式会社国際電気通信基礎技術研究所
 出願日:2012年3月5日 登録日:2015年9月11日



 ※特許の本の紹介。
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MIMOチャネル間の相関が高くなるとストリームデータの一部が失われやすくなる従来問題

 MIMO通信では複数の受信機の距離が近い場合にMIMOチャネル間の相関が高くなります。この場合、従来のMMSE法によるビーム形成では、ストリームデータの一部が失われるおそれがあるという問題があります。これを解決するための検討も従来なされており、アンテナ選択法、BD-VP法などがあります。

 しかし、チャネルの通信品質を広い範囲で良好に維持しつつ、マルチユーザMIMOで複数のストリームを伝送するのに適切な方法がありませんでした。

総送信電力が大きくなるチャネル応答行列を用いて重み付け係数を算出

 本発明では、基地局のアンテナの指向性を制御するための重み付け係数の決定方法に特徴があります。まず、サブキャリアのチャネル応答行列から抽出された、受信機のアンテナに相当する部分行列のアンテナ指向性に対する電力規格化係数と、サブキャリアのチャネル応答行列そのものに対する電力規格化係数とを求めます。

 そして、上記2つの電力規格化係数それぞれにより送信電力を規格化した場合に規格化後の総送信電力が大きくなる方の電力規格化係数を用いて、チャネル応答行列により上記重み付け係数を算出します。これにより、総送信電力を規格化するための係数が大きすぎる値になることを回避し、その結果、特定のストリームの送信データが失われることを回避します。

(用語)
OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing):直交周波数分割多重方式。互いに直交する複数のサブキャリアにデータを乗せて伝送する方式。
MIMO(Multiple Input Multiple Output ):複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる無線通信技術

【課題】
マルチユーザMIMO通信において、複数のストリームについての伝送を安定に維持することが可能な無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法を提供する。
【請求項1】
 基地局と複数の端末との間で、直交周波数分割多重方式で変調された信号をMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線通信システムであって、
 前記基地局は、
 複数の第1のアンテナと、
 前記複数の端末について推定された伝送路のチャネル状態情報に基づいて、アンテナ指向性を制御するための重み付け係数を算出するための制御部と、
 送信信号に対して誤り訂正符号を付加する誤り訂正符号化処理部と、
 前記複数の第1のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信信号に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、
 前記重み付け処理部の出力を前記複数の第1のアンテナから送信するための第1の送信処理部とを備え、
 各前記複数の端末は、
 第2のアンテナと、
 前記複数の送信信号のうち、対応する送信信号を受信するための受信処理部と、
 前記受信処理部で受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路のチャネル応答行列を推定し、前記チャネル状態情報として、前記第2のアンテナから前記基地局に送信するための第2の送信処理部と、
 受信した信号に対して誤り訂正処理を行う誤り訂正部とを備え、
 前記基地局の制御部は、
 前記直交周波数分割多重方式におけるサブキャリアごとの伝送路の応答に対応するサブキャリアチャネル応答行列の要素において、前記複数の端末の前記第2のアンテナにそれぞれ対応する行方向のノルムを算出し、
 前記直交周波数分割多重方式で送信される信号の所定の期間ごとに、前記行方向のノルムの大きなものから第1所定数を選択し、選択された前記行に対応する前記第2のアンテナに相当するように、前記サブキャリアチャネル応答行列から抽出された部分行列についての前記アンテナ指向性に対する第1の総電力規格化係数と、前記サブキャリアチャネル応答行列自身についての前記アンテナ指向性に対する第2の総電力規格化係数とを比較し、規格化後の信号電力が大きい方のチャネル応答行列に基づいて前記重み付け係数を算出する、無線通信システム。

今日のみどころ

 MIMOでは複数のストリームに分けてデータを送信しますが、その複数のストリームの電波が互いに干渉することにより理想的な状態から外れると伝送性能が低下します。これを解決するために、干渉がある場合にその影響がストリームにどのように現れるかをチャネル応答行列に基づいて検討し、解決方法を検討していると思います。

 さまざまな高度で複雑な技術を前提とした上での発明なので理解するのも大変ですが、発明のポイントはとてもわかりやすいです。