今回は、海水をノズルから噴出させてアンテナを形成する発明を紹介します。
従来、さまざまな場所に設置できる省スペースアンテナの要求があります。
この発明では、ノズルから吹き出す電解液(海水)をアンテナとして機能させます。複数のノズルを備え、長さ(高さ)が異なる複数の液柱により、さまざまな周波数帯域の電波を送受信することができます。これにより、さまざまな位置に設置できるアンテナを実現します。
US 7,898,484 B1 / The United States Of America As Represented By The Secretary Of The Navy (アメリカ海軍)
出願日:2008年5月12日 登録日:2011年5月1日
さまざまな場所に設置できる省スペースアンテナの要求
無線通信が普及し、ビルの屋上、自動車や飛行機の外面などのさまざまな場所に無線通信のためのアンテナを設置することが求められています。
アンテナを設置できる場所が限られているので、省スペースなアンテナが求められています。特に、複数のアンテナを設置したい場合に顕著になります。
ノズルから吹き出す電解液(海水)のアンテナ
この発明のアンテナは、電解液により形成されます。電解液の電気伝導率は5S/m(ジーメンス/メートル)以上必要で、その一例は海水です。
ポンプによって送り出され、ノズルから吹き出した電解液の液柱(水柱)がアンテナとして機能します。電流はナトリウムイオンによって運ばれます。ポンプからノズルまでの経路の途中に圧力調整器を入れてアンテナとしての液柱の長さを変化させることができます。
また、ノズルを複数本にし、各ノズルから出る液柱の高さを変えることでさまざまな周波数帯域の電波(例えばUHF,VHF,HF帯域)の送受信をすることができます。左右の両方向に液柱を形成することでダイポールアンテナを構成することもできます。クレーム1は3本のアンテナを構成する形態が記載されています。
これにより、さまざまな位置に設置できるアンテナを実現します。
A need exists for an antenna with a relatively small footprint.
Claim 1.
An antenna comprising:
a first current probe having an aperture;
a pump having a nozzle, wherein the pump is configured to pump a free-standing stream of electrolytic fluid out the nozzle and through the aperture;
a first transceiver operatively coupled to the current probe;
a pressure regulator operatively coupled to the pump, wherein the pressure regulator is configured to alter the pressure of the electrolytic fluid between the pump and the nozzle, wherein the first current probe is positioned approximately where the electrolytic fluid exits the nozzle, and wherein the nozzle is comprised of multiple heads such that the stream of electrolytic fluid is comprised of multiple sub-streams;
second and third current probes, wherein the second and third current probes each have an aperture, and wherein the apertures of each current probe are approximately aligned with each other; and
second and third transceivers, wherein the second and third transceivers are operatively coupled to the second and third current probes respectively.
継続出願により広い権利範囲を確保
また、この出願は、特許査定後に継続出願(Continuation Application)がなされて、権利範囲が少し異なる別の特許も成立しています。継続出願は、日本の分割出願のような制度です。
上記のクレームでは、アンテナの構成要素が、3つの電流プローブと、ノズルを有するポンプと、3つのトランシーバ(送受信機)と、圧力調整器とを備えるものでした。
継続出願では、アンテナの構成要素が、電流プローブと、ノズルを有するポンプと、トランシーバだけになっていて、余計な限定をなくして広い権利範囲を確保しています。
具体的には、ポンプがノズルから押し出す電解液が電流プローブの開口部を通って自立するようになっていて、電流プローブは、電解液が流れる位置に配置されているという感じです。1本のアンテナだけの権利になっていて、アンテナの長さ調整の技術もなくなっています。
US 8,169,372 B1 / The United States Of America As Represented By The Secretary Of The Navy (アメリカ海軍)
出願日:2011年1月24日(原出願日:2008年5月12日) 登録日:2012年5月1日
a first current probe comprising a core of ferromagnetic material having an aperture therein;
a pump comprising a nozzle, wherein the pump is configured to pump a free-standing stream of electrolytic fluid out the nozzle and through the aperture such that the stream and the current probe are magnetically coupled; and
a first transceiver operatively coupled to the current probe; wherein the first current probe is positioned approximately where the electrolytic fluid exits the nozzle.
今日のみどころ
海水を吹き出してアンテナとして用いるというアイデアで、シンプルで、かつ、根本的に新しいアイデアだと思ってしまいました。海水があるところに、この吹き出し口を設置するだけで使えます。この吹き出し口を海上にある程度の間隔をあけて配置するとマルチホップ通信のネットワークができてしまうとか、いろいろな応用が思いつきます。
アメリカ海軍の発明ということで、海上に一時的な(アドホックな)ネットワークを構築するというような使い方も想定されます。
アンテナ、海水、液体の吹き出しなどの物理的性質や物理現象は当然よく知られたものなのですが、このような発明はなかなか着想しないものです。頭を柔らかくしていきましょう。すばらしい!
あと、継続出願で、より広い権利範囲を確保するという特許戦略も参考になります。日本では分割出願で同じようなことができます。