列車の無線通信システムでの電波干渉を防止する発明 日立国際電気 電通大

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 この発明の列車無線通信システムでは、基地局が2つの指向性アンテナを備えています。各基地局は、送信しようとするデータ列に基づいて、互いに直交する2つのデータ列を生成し、この2つのデータ列を2つのアンテナにより送信します。列車に搭載される移動局は、このように送信された基地局からのデータを受信します。

 これにより、移動局において、隣接する基地局からの信号が干渉することを回避し、正常に信号を受信することができます。

 特許第5843126号(特開2012-156824) 株式会社日立国際電気 国立大学法人電気通信大学
 出願日:2010年6月30日 登録日:2015年11月27日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

隣接する基地局からの電波によるビート干渉などの問題

 鉄道車両のような列車の無線通信システムは、線路に沿って配置された複数の基地局と、列車に搭載された移動局とで構成されます。移動局が常に基地局からの電波を受信することができるようにするために、基地局が送信する電波が届く範囲は、隣接する基地局が送信する電波が届く範囲と重なるように配置されています。

 しかし、隣接する2つの基地局からの電波を受けて、これらの電波が互いに干渉すると、正常にデータを受信できない現象(同一波干渉又はビート干渉)が生じるという問題があります。また、複数の基地局からの電波が互いに逆位相になることで打ち消しあったり、列車が高速移動することでドプラーシフトによるフェージングが生じたりする問題も生じます。

隣接する2つの基地局から直交する2つの信号を送信

 この発明の列車無線通信システムでは、基地局が2つの指向性アンテナを備えています。この2つの指向性アンテナにより、電波が到達する範囲が異なる(一部は重複している)2つの形成します。そして、各基地局は、送信しようとするデータ列に基づいて、互いに直交する2つのデータ列を生成し、この2つのデータ列を2つのアンテナにより送信します。

 このようにすると、列車が搭載する移動局は、1つの基地局のみからの電波が届く領域に存在しているときにはその1つの基地局からの電波を受信します。また、2つの基地局からの電波が届く領域に存在しているときには、2つの基地局から互いに直交した2つの信号を受信し、干渉することなく元のデータを復元することができます。

 これにより、移動局は、電波を全く受けられない状態を回避し、また、2つの基地局からの電波を受ける場合に正しく信号を復元することができます。

【課題】
単一の周波数を用いて複数の基地局装置から信号を送信するような同報型無線システムにおいて、干渉の防止を図った無線通信システムや基地局装置や無線通信方法を提供することを目的とする。
【請求項1】
 線路に沿って配置されて各々離れた位置に設置された複数の基地局装置と、前記基地局装置から無線により送信される信号を受信する移動局装置を有する列車無線通信システムにおいて、
 前記複数の基地局装置の各々は、DSTBCを用いて送信対象となる共通のデータ列から互いに直交する2つのデータ列を生成する生成手段と、異なる無線通信領域を形成するとともに前記無線通信領域の一部が重なる複数の指向性アンテナと、を備え、前記複数の指向性アンテナの各々から前記生成手段により生成された前記互いに直交する2つのデータ列のうちの一つのデータ列の信号を無線により送信するように構成され、
 当該列車無線通信システムでは、隣接する2つの基地局装置について、無線通信領域が重複する隣り合う一方の基地局装置の指向性アンテナと他方の基地局装置の指向性アンテナの各々から互いに直交する異なるデータ列の信号が送信され、前記2つのデータ列が隣接する無線通信領域毎に交互に割り当てられるとともに、隣接する2つの基地局間で異なるデータ列の無線通信領域が重複するように前記指向性アンテナが備えられた、
 ことを特徴とする列車無線通信システム。

今日のみどころ

 この請求項では、基地局装置の位置、生成するデータの特徴、アンテナの指向性、アンテナで送信する信号などについて結構細かく限定がはいっていると思います。そのおかげで請求項1を読んだだけで、技術のポイントをつかむことができました。一方、公開広報を見ると、出願時の請求項1はそれほど細かい限定がなく広い権利範囲を狙っていたこともわかります。

 このように見てみると、公開広報と特許公報の請求項1の差分が、特許をとれない発明と、特許をとれる発明との境界線といえます。このような観点でも考えてみましょう。