【特許紹介】データとACKとの通信からCWminを決定してWi-Fi通信の衝突を回避する特許発明(NTT)

図1

 今回は、Wi-Fiの通信に関する特許を紹介します。

 従来、Wi-FiのCSMA/CAでは端末数がCWminより大きいと必ず衝突するという問題があります。

 この発明では、データとACKとの通信をモニタし無線稠密度に応じてCWminを決定します。これにより、Wi-Fi通信の衝突を回避します。



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 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

Wi-FiのCSMA/CAでは端末数がCWminより大きいと必ず衝突する問題

 Wi-Fiでは、無線通信の衝突回避のための仕組みとしてCSMA/CAとよばれるものが採用されています。

 CSMA/CAでは、無線フレームを送信する前にランダムな時間(バックオフ時間)を待ってからフレームを送信します。バックオフ時間は、0からCW(コンテンションウィンドウ)までの範囲のランダムな整数値で決定されます。CWは、初期値CWminから始めて再送するごとに増加します。

 この方法だと、送信を行う無線端末の数が多い場合、例えば、送信を行う無線端末の数がCWminより多い場合、かならず衝突することになってしまうという問題があります。

データとACKとの通信をモニタし無線稠密度に応じてCWminを決定

図2


図3

 この発明は、バックオフ時間の設定の仕方を工夫して無線通信の衝突を回避します。

 バックオフ時間を設定するときに、周囲で送受信されるデータフレームとACKフレームから算出される「無線稠密度」(むせんちょうみつど)という独自の指標を使用します。

 無線稠密度は、通信エリア内の混雑の度合いを表す指標で、データ通信の失敗が多いほど大きな値が設定されます。

 この無線稠密度を用いて、この通信装置は、無線フレームの再送の際のCWminを、無線LANの通信規格の規定値より大きな値に設定します。無線フレームが相手に送信成功すると、CWminを規定値に設定します。

 これにより、通信が混雑している場合にも通信の衝突を回避して無線通信することができます。 

 特許第5889815号 日本電信電話株式会社
 出願日:2013年2月21日 登録日:2016年2月26日

【課題】
通信環境に応じてバックオフパラメータおよびバックオフアルゴリズムを最適制御し、通信品質を安定させるとともにシステムスループット特性を改善する。
【請求項1】
 無線LAN規格に基づくバックオフパラメータを用いてバックオフ制御を行う無線LAN装置のバックオフ制御方法において、
 通信エリア内で送受信されるデータフレームおよびACKフレームをモニタし、所定の検出期間内に検出されるフレーム数に応じて、通信エリアの混雑を示す無線稠密度を推定するステップ1と、
 前記バックオフ制御に用いるバックオフパラメータの1つであるCWの初期値CWminについて、初回送信時は前記無線LAN規格の規定値を適用し、送信失敗による再送時に前記無線稠密度に応じて前記無線LAN規格の規定値より大きな値に設定し、送信成功時に前記無線LAN規格の規定値を設定するバックオフアルゴリズムを実行するステップ2と
 を有することを特徴とするバックオフ制御方法。

今日のみどころ

 Wi-Fiの通信の衝突回避に関する発明です。この分野は、既にいろいろなやり方が提案されているので、新しいと思うアイデアでもなかなか特許になりにくいのではないかと思っていましたが、このアイデアはしっかり特許をとることができています。

 ちょっと難しいと思う分野でも、しっかり検討して特許とりましょう!

 ちなみに、この特許の先行技術文献に、私のおすすめ書籍「改訂三版 802.11 高速無線LAN教科書 (インプレス標準教科書シリーズ)」が挙げられています。従来技術の参照先としてこのように利用することもできて便利です。Wi-Fi通信の基本知識を固めるのにおすすめの本です。