鉄道車両の全車両へ放送できる場所の制約をなくせる発明 JR東日本

 従来の鉄道車両の通信システムでは、全車両に放送できる場所が限定される問題がありました。この問題を解決する発明です。

 この発明の通信システムでは、鉄道車両の通信システムを構成する2つのシステム間の制御信号を相互に変換して音声信号を送受信します。これにより、全車両に放送できる場所の制約がなくなり利便性が向上します。

 特許第6122586号 東日本旅客鉄道株式会社
 出願日:2012年6月27日 登録日:2017年4月7日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

全車両に放送できる場所が限定される問題

 鉄道車両では、車内放送や非常通報などの音声を伝達するために通信システムが利用されています。この通信システムは、固定配置されたシステム(車内通信システム)と、無線端末によるシステム(無線通信システム)とにより構成されています。

 従来の通信システムでは、全車両にわたって放送できるのが車掌室や運転室に設置された送受話器だけに限定されていました。固定配置されたシステムの配線や設備の都合による制限があったためです。

 そのため、全車両にわたって放送できる場所が車掌室などに限定され利便性が低いという問題がありました。

システム間の制御信号を相互に変換して音声信号を送受信

 この発明の通信システムでは、車内通信システムと無線通信システムとの間で制御信号を相互に変換します。また、車内通信システムに含まれる非常通話システムと、無線通信システムに含まれる無線端末との間での音声信号の送受信を行わせます。

 そして、各車両に設置されている非常通話システムのスイッチが操作されると、この操作に従って、操作されたスイッチと非常通話システムとの間で音声の送受信が行われます。また、所定の優先条件に従って通話の有線制御も行われます。

 これにより、鉄道車両の通信システムで、非常通報スイッチを利用した音声通話を実現することができます。また、放送できる場所の制約がなくなります。なお、無線通信システムはPHSです。

【課題】
 列車内における車内放送,乗務員間通話,非常通話が可能な位置を従来に比べて広げる。
【請求項1】
 鉄道車両に固定配置された、車内放送システム,乗務員間連絡システム,及び乗客と乗務員間との非常通話システムの少なくとも1つを含む車内通信システムと、
 前記鉄道車両に搭載された、無線通信制御装置,1以上の無線基地局,及び乗務員が携帯する1以上の無線端末を備えた無線通信システムと、
 前記車内通信システムからの制御信号を前記無線通信システム用の制御信号に変換する一方で、前記無線通信システムからの制御信号を前記車内通信システム用の制御信号に変換する接続制御装置と、を備え、
 前記車内通信システムは、車内に固定配置されたトリガスイッチと、前記トリガスイッチのオンに応じて前記無線端末の呼び出し信号を発生させる信号発生装置と、前記トリガスイッチのオンに応じた報知情報を含む報知情報信号を出力する出力装置とを含み、
 前記無線通信制御装置は、前記接続制御装置から受信される、信号変換された前記呼び出し信号及び前記報知情報信号を前記無線基地局を通じて前記無線端末に供給し、
 前記無線端末は、前記呼び出し信号に応じた呼び出し処理、及び前記報知情報信号に応じた報知処理を実行し、
 前記車内通信システムは、前記非常通話システムを含み、
 前記トリガスイッチは、非常通報スイッチであり、
 前記報知情報信号は、非常通報を知らせる情報を含み、
 前記接続制御装置は、前記乗務員の応答によって確立される前記非常通話システムと前記無線端末とを接続し、前記非常通話システムと前記無線端末との間で音声信号の送受信を行わせ、
 前記車内通信システムは、複数の前記非常通報スイッチと、当該複数の非常通報スイッチの選択操作を行う選択装置を含み、
 前記接続制御装置が、前記複数の非常通報スイッチのうち、第一の非常通報スイッチに対する選択操作を前記無線端末と前記選択装置とから受信した場合、前記選択操作で選択された第一の非常通報スイッチと前記非常通話システムとの間で音声信号の送受信を行わせ、前記複数の非常通報スイッチのうち所定の優先条件に従って選択した第二の非常通報スイッチと前記無線端末との間で音声信号の送受信を行わせる鉄道車両用の通信システム。

今日のみどころ

 鉄道車両の通信システムを用いて、非常通報スイッチを操作した場合の音声通話を行うことができる発明です。鉄道車両の通信システムの技術はあまり知らなかったので勉強になりました。要素技術はそれほど新しいものではないと思いますが、複数のシステムで成り立っていること、その複数のシステムの間でのやりとりに制約があることなど、いままで知らなかったことを知ることができました。

 気になったのは、特許をとるために必要なレベルの詳しさを超えて情報を公開してしまっているかもしれない点です。鉄道車両は公共性が高いので、セキュリティ上、あまり開示しない方がよい内容もあるかもしれませんね。