2つのアンテナ間の電波干渉を抑え、通信制限されにくい車両通信装置の特許発明 デンソー

図2

 従来、2つのアンテナを備えるシャークフィンアンテナのような車両の無線通信装置で、電波干渉がある場合に、無線通信ができない期間が多いという問題がありました。

 この発明では、電波干渉がある場合に、車両が停車中でないときに、アンテナが送信する電波の送信電力を低下させます。これにより、無線通信が制限されないようにしながら、電波干渉を抑えることができます。

 特許第5907139号 株式会社デンソー
 出願日:2013年10月7日 登録日:2016年4月1日



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無線通信ができない期間が多いという問題

 複数の種類の無線通信を行うことができる装置が増えています。例えば、近距離無線通信(Suica、Pasmo、Edyなどの非接触型ICカード)と同じ通信規格の通信機能と、携帯電話の通信機能との両方をもつ装置があります。

 このような装置では、複数の無線通信が送信する電波の干渉が問題になることがあります。そのため、例えば、近距離無線通信を行っていることを検出すると、携帯電話の通信を停止する技術があります。

 しかし、無線通信を停止させてしまうと、停止させた方の通信ができない期間が多くなるという問題があります。

電波干渉がある場合、停車中以外に送信電力を低下させる

図4

 この発明の無線通信装置は、自動車などの車両に搭載されるもので、2つのアンテナがあります。具体例として、内部に2つのアンテナを搭載するシャークフィンアンテナ(図2)があります。

 2つのアンテナは、両方が電波を受信して空間ダイバシティの効果が得られるようになっています。また、そのうちの1つが送信アンテナになっています。車車間通信/路車間通信(V2X通信)用のアンテナです。

 そして、一方のアンテナが送信した電波が、他方のアンテナに干渉しているかどうかを判定します(図4)。干渉している場合には、干渉を抑制する処理を行います。具体的には、干渉があるかどうかは、受信データの受信エラー率から判定できます。干渉を抑制する処理は、電波を送信するアンテナの送信電力を下げる処理があります。

 さらに、原則として上記のようにアンテナの送信電力を下げる処理をしますが、自動車が停車中のときには例外的にこの処理をしません。停車中には、V2X通信を優先する必要が低いからです。

 これにより、2つのアンテナ間の電波干渉を抑えながら、通信が制限されることを少なくすることができます。

【課題】
第一の無線通信部が受信する電波が、第二の無線通信部が送信する電波により干渉されることを抑えつつも、通信が制限されることが少ない無線通信装置を提供する。
【請求項1】
 第一の無線通信部(2)と第二の無線通信部(3、3A)とを備え、車両に搭載される無線通信装置(1、1A)であって、
 前記第二の無線通信部が電波を送信しているときの前記第一の無線通信部の受信状態に基づいて、前記第一の無線通信部が受信した電波が、前記第二の無線通信部が送信した電波により干渉されている被干渉状態であるかを判定する干渉判定部(210A)と、
 前記干渉判定部が前記被干渉状態であると判定したことに基づいて、前記第一の無線通信部が受信する電波が、前記第二の無線通信部が送信する電波により干渉されにくくなる干渉抑制処理を行う干渉抑制処理部(210B)とを含み、
 前記第一の無線通信部は車車間通信および路車間通信の一方または両方を行い、
 前記干渉抑制処理部は、前記第二の無線通信部の送信電力をそれまでよりも低下させることで、前記被干渉状態となりにくくするが、前記干渉判定部が前記被干渉状態であると判定しても、この無線通信装置が搭載されている車両が停車中であれば、前記第二の無線通信部の送信電力を低下させないことを特徴とする無線通信装置。

今日のみどころ

 最近よく見る自動車のシャークフィンアンテナに関する特許です。空間ダイバシティの効果を得るために、シャークフィンアンテナの筐体の中に受信アンテナを2つもっています。シャークフィンアンテナの内部の模式図があって勉強になります。

 昔はAM/FMラジオの受信アンテナくらいしかありませんでしたが、最近の自動車は、車車間通信/路車間通信(V2X通信)、携帯電話網などの通信によってさまざまな情報を受信する高度な情報機器に進化していますよね。たくさんの技術が集まるところには、たくさんの新しい発明も生まれると思います。たくさんの技術が集まるところ、みなさんの身近にもありますか。