TCP/IP通信品質が低下すると接続APを切替える通信機器の特許発明 サイレックス・テクノロジー

JPB_0005659350_fig3

 無線LAN機器における、接続先のアクセスポイント(AP)の切り替えに関する発明です。上位のアプリケーションレイヤで高い通信品質が確保できるとは限らないという問題を解決する発明です。

 この発明では、複数のアクセスポイント(AP)に接続可能な通信機器が、TCP/IP通信の品質の低下に基づいて接続先のAPを切り替えます。これによりアプリケーションレイヤの通信品質を高く維持することができます。

 特許第5659350号(特開2013-009130) サイレックス・テクノロジー株式会社
 出願日:2011年6月24日 登録日:2014年12月12日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

上位のアプリケーションレイヤで高い通信品質が確保できるとは限らない問題

 従来、受信電波強度(RSSI)のようなデータリンク層の通信品質に基づいて通信機器の接続先のAPを切り替える技術があります。

 しかし、上記の従来技術では、必ずしも上位のアプリケーションレイヤで高い通信品質が確保できるとは限らないという問題があります。具体的には、例えばAPが密集している場合には、APから受信する電波のRSSIが高い場合でも通信フレームのロスが発生することがあります。

TCP/IP通信の品質が低下した場合にAPを切り替え

 この発明の無線LAN機器は、無線LAN機器がAPを経由して行うアプリケーションレイヤ(TCP/IP)の通信の品質を監視します。

 そして、TCP/IP通信の品質が低下した場合に、現在接続しているAPから、他のAPに接続するように接続先APを切り替えます。接続先のAPは、より具体的には、現在接続しているAPを除くAPのうち、そのAPから受信する信号のRSSIが最も強いものとします。TCP/IPの通信の品質としては、具体的には、スループット、セッション切断回数又はウィンドウサイズなどがあります。

(用語)
RSSI:Received Signal Strength Indicator 受信信号強度。受信した電波の強度を示す指標。

【課題】
MAC層での通信品質測定手段であるRSSIだけに依存する場合の弊害を無くし,実際に通信する端末同士の通信品質を最適化することを目的とする。
【請求項1】
周囲の通信可能なアクセスポイントを検索するアクセスポイント検索手段と,
接続するアクセスポイントを切り替える手段であって,接続中のアクセスポイントから,前記アクセスポイント検索手段によって検索されたアクセスポイントのうち,いずれか1つのアクセスポイントに対し接続を切り替えるローミング手段と,を備える無線LAN機器であって,
前記接続中のアクセスポイントを経由した,自身と所定の通信端末との間のTCP/IP通信の品質に基づいて前記ローミング手段によるローミングをするか否かを決定するローミング判断手段と,
前記ローミング判断手段によってローミングすると決定された場合,前記アクセスポイント検索手段によって検索されたアクセスポイントのうち,その時点において接続中のアクセスポイントを除いたアクセスポイントを前記ローミング手段によるローミングの対象候補として決定するローミング対象候補決定手段と,を備えることを特徴とする無線LAN機器。

今日のみどころ

 従来技術とこの発明との差は、従来技術ではデータリンク層での通信品質に基づいてAP切り替えをしていたのに対し、この発明ではTCP/IP通信の通信品質に基づいてAP切り替えをする点です。レイヤを跨いで処理を行うクロスレイヤのアプローチといえます。

 もともと通信に関するさまざまな処理を複数階層に分けて考えるために、各処理をレイヤごとに分けることが行われていますが、特定の目的のためにレイヤの垣根を壊して異なるレイヤの情報を用いて処理することが有効なこともあります。