磁気ストライプの保護と非接触ICカードの読み書きを両立する発明 シェリー

 クレジットカード等の磁気ストライプが外部磁気により破壊されてしまうという問題を解決する発明です。

 この発明の通信制御体は、磁気ストライプを外部磁気から保護する磁気不良防止機能と、渦電流を抑制して非接触ICカードの読み書きを可能とする機能とを両立させます。

 特許第5378240号 株式会社シェリー
 出願日:2010年1月6日 登録日:2013年10月4日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

磁気ストライプの情報が外部磁気により破壊される磁気不良の問題

 キャッシュカードやクレジットカードに磁気ストライプ(黒い帯状部分)付きカードが用いられています。また、非接触ICカードにも磁気ストライプがついたもの(例えば、ビュースイカカード、ビックカメラスイカカード等)があります。

 磁気ストライプは、外部からの磁気により情報が破壊される磁気不良が生ずるという問題があります。外部からの磁気は、例えば、携帯電話やゲーム機器により発せられるものです。

 磁気ストライプの情報が破壊されると、情報の読み書きというカードとしての機能を果たすことができなくなり、カードの再発行などのためコストが増加するという問題もあります。

切断部を有する金属枠体を重ねることで磁気ストライプを保護

 この発明のカード用通信制御体は、磁気ストライプ付きカードと重なる位置に配置される金属の枠体を備えている点が特徴です。この金属の枠体は、渦電流を抑制するための切断部を有しています。

 磁気ストライプと金属枠体が重なることで、外部の磁気が磁気ストライプ部分に届きにくくなります。これにより、磁気ストライプの情報が破壊されることが抑制され、外部の磁気から磁気ストライプが守られる効果、つまり磁気ストライプの磁気不良の防止効果があります。

 また、仮に金属枠体が一体の金属板である場合には非接触ICカードの読み取り及び書き込みに用いられる電磁波により金属枠体内部に渦電流が発生し、読み取り及び書き込み用の電磁波を遮断してしまいます。本発明の金属枠体は、切断部があることで、上記渦電流の発生を抑制し、電磁波の遮断を回避することができます。

 このようにして、カード用通信制御体は、磁気ストライプを外部磁気から保護するとともに、非接触ICカードの読み取り及び書き込みを正常に行わせることができます。

 なお、金属の枠体に「抗磁性」という文言が用いられていますが、一般的な文言であるかどうかがよくわかりません。明細書には、鉄やコバルト等の透磁率の高い金属と説明されているので、「強磁性」の意味だと思われます。抗磁性という文言だけでは、磁気に抗する、つまり、反磁性の意味も連想されてしまうと思います。

 (用語)
 非接触ICカード:リーダ・ライタから送信されるキャリアにより、電磁誘導により電力を供給され、キャリアの変調によりリーダ・ライタと通信を行うカード。通信方式としてNFCが用いられるFeliCaが採用されるのが一例。具体的には、Suica, PASMO, ICOCA, PiTaPaのような交通系ICカード、楽天Edy, WAON等の流通系ICカードがある。

【課題】
磁気ストライプ付きカードおよび磁気ストライプ付き非接触ICカードの磁気ストライプに記憶された情報を外部の磁気から保護すると共に、非接触ICカードとしての機能には影響を与えないカード用通信制御体を提供する。
【請求項1】
 磁気ストライプ付きカードに重畳して使用するカード用通信制御体であって、
 切断部を有する抗磁性金属枠と、前記抗磁性金属枠を担持するカード状支持体とを備え、
 前記磁気ストライプ付きカードに重畳するように配置したとき、少なくとも前記抗磁性金属枠の一部と前記磁気ストライプとが重合され、
 近傍から磁界が印加されたとき、前記磁気ストライプに記録された情報の破壊を防止することを特徴とするカード用通信制御体。

今日のみどころ

 磁気ストライプを携帯電話に近接させたことで磁気ストライプの情報が破壊されることは、私も実際に経験したことがあります。一方、ビックカメラスイカカードを通勤定期として使っていた期間もありましたが、そのときは特に問題なく使えました。磁気不良の問題が生ずるか田舎には、カードの内部構造なども影響しているのかもしれません。

 本発明の「切断部を有する金属枠体」の、磁気ストライプを保護する磁気不良防止機能と、渦電流を抑制して非接触ICカードの読み書きを可能とする機能とを両立させる働きは、技術的におもしろいと思います。2つの機能や効果を両立させる技術は、進歩性の認定に有利に働きます。