【特許紹介】マルチキャストで無線状況を伝えることでユニキャストの遅延を抑制する特許発明(サイレックス)を紹介

 今回は、Wi-Fiなどの無線LANに関する発明を紹介します。今日も一緒に勉強しましょう。

 従来、無線状況を伝えるための無線通信が、他の無線通信に悪影響を与える問題があります。

 この発明では、基地局(アクセスポイント)が無線状況を伝える無線通信をマルチキャストで行うことで、ユニキャストへの悪影響を抑えます。これにより、通常の無線通信を低ロスで行いながら、無線状況の送信もすることができます。



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

無線状況を伝えるための無線通信が、他の無線通信に悪影響を与える問題

 Wi-Fiなどの無線LANが利用されています。Wi-Fiなどの無線LANには、電波が用いられています。無線LANのスループット(通信量)を大きくするには、他の無線装置が通信していないチャネルで通信するのがよいです。

 Wi-Fiなどの通信のために、無線通信の状況を取得する装置があります。無線通信の状況がわかると、無線通信が少ないチャネルを選択するのに役立ちます。

 無線通信の状況を無線通信によって他の無線装置で利用するために、他の装置に送信することが考えられます。その場合、その無線通信が、他の通信に悪影響を与えてしまうことがあるという問題があります。

無線状況を伝える無線通信をマルチキャストで行うことで、ユニキャストへの悪影響を抑える


 この発明の基地局(つまりアクセスポイント)は、無線通信との間で通常の無線通信をしながら、無線状況の送信もすることができます。

 通常の通信は、ロスが少ないことが求められます。一方、無線状況の送信は、少しくらいロスがあっても許容されるという特徴があります。

 そこで、無線通信との通信には、ユニキャストでの通信をします。ユニキャストの通信というのは、普通の1対1の通信であり、パケットがロスしたときの再送の制御などがあります。

 また、無線状況の送信には、マルチキャストでの通信をします。マルチキャストの通信は、1対多の通信であり、パケットがロスしたときの再送がありません。

 そして、無線状況の送信は、最新のいくつかの状況情報を送信するようになっています。言い換えると、状況情報は、一回だけでなく複数回送信されます。そのため、1回の送信でロスしたとしてもその後の送信で相手に届けられることが期待できます。ユニキャスト通信のロスを大きくしないようにすることができるメリットもあります。

 このようにして、通常の無線通信を低ロスで行いながら、無線状況の送信もすることができます。

 特許第6533935号 サイレックス・テクノロジー株式会社
 出願日:2017年12月28日 登録日:2019年6月7日

【課題】
 取得した状況情報を、周囲の無線通信への影響を抑制しながら外部の装置に提供できる基地局等を提供する。
【請求項1】
 基地局であって、
 記憶部と、
 無線通信インタフェースである第一インタフェース及び第二インタフェースと、
 前記第一インタフェースを用いて、端末との間でユニキャストで通信する制御部と、
 前記第二インタフェースを用いて、前記基地局の周囲の無線通信の状況を示す状況情報を複数回取得し、取得した前記状況情報を前記記憶部に格納する取得部と、
 前記記憶部に格納された前記状況情報のうち、最新の所定数個の状況情報のみを、前記第一インタフェースを用いてマルチキャストで送信する送信部とを備える
 基地局。

今日のみどころ

 無線通信で、高い確率で相手に届けたい通信と、相手に届く確率が低くてもよい通信とを使い分けることができます。

 請求項1が、平易な言葉を上手に使って、しかも短くコンパクトに表現されていると思います。余計な限定がない、広い権利範囲を確保できていると思います。勉強になります。

 企業知財部員や特許技術者にとっては、こんな技術内容で請求項を書くとすれば、どのように書けるかなと考えてみると、よい勉強になりますね。