【本紹介】パスタをゆでるお湯に塩を入れるか科学的・技術的に検証「男のパスタ道」

 パスタをゆでるお湯に塩を入れる。でも入れなくていい、入れる必要がない、という意見もある。

 よく言われる話だけど、試した人はいないのかな。テレビ番組で検証したこともあるみたいだけど、結局、どちらの意見もある。どっちやねん。

 私もよくそう思っていました。私は大学から社会人にかけて10年以上一人暮らしをしていたこともあり、パスタを作って食べることが多いです。私は「塩を入れる」派です。

 今回は、パスタをゆでるお湯に塩を入れる場合と入れない場合とで実際にどのような違いがあるかを科学的・技術的に詳しく調べた本を紹介します。その検証結果を踏まえたペペロンチーノのレシピも掲載されています。

 この記事を読めばパスタをゆでるお湯に塩を入れるとどんな効果があるのか、ないのか、詳しい検証結果を知ることができ、あなたのパスタづくりに生かすことができます。

 「男のパスタ道」という本ですが、性別をとわず、科学者向けのパスタ道、技術者向けのパスタ道といった感じで、パスタ好きの科学者・技術者は必読です!



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

パスタをゆでるお湯に塩をいれる効果を科学的に検証した本「男のパスタ道」

 パスタをゆでるときに塩を入れる。よくレシピに書かれています。

 塩を入れる理由は、いろいろと説明されています。例えば、パスタに塩味を付けるため、パスタにコシを出すため、ゆでているお湯の沸点を上げるため。などといわれています。

 でも、科学的な根拠があるのかがいまいちわからない。おいしいパスタを作れる料理人でも、物理的、科学的にどんな効果があるか検証した人はいないだろうと思う。

 一方、テレビやネット上では、パスタをゆでるときに塩を入れる必要はない、という情報もある。

 実際どうなのか。気になる。

パスタをゆでるお湯に塩を入れた場合の科学的な効果を実験で確かめるのは難しい

 パスタをゆでるお湯に塩を入れる必要があるのか、ないのか。塩を入れるとどんな効果があるのか、を科学的に実験で確かめるのは、結構難しく、手間がかかります。

 正確に実験しようと思えば、塩の量を変えつつ、その他の条件は同じにして効果を測定をする必要があります。

 例えば、塩を入れる入れないでパスタのコシが変化するかどうかを確かめる場合には、他の条件を同一にして、塩を入れた場合と、塩を入れない場合とでコシを評価しないといけない。

 さらに、コシの評価といっても、どんな物理量を計測すればよいかも難しい。

 パスタを作って食べて、ある程度おいしければいい。と思っているだけだと、なかなかそこまでできませんよね。

パスタをゆでるお湯に塩をいれる理由を検証

 この本では、おいしいペペロンチーノを作るという最終目的に向けて、パスタをゆでるお湯に塩をいれる理由・効果を実験で検証しています。

 実験の条件や評価方法も詳しく記載されているので、結果の信頼性も高い。タンパク質の構造と関連付けてパスタの硬さやちぎれ方の評価もなされています。

 そして、パスタをゆでるお湯に塩をいれることの効果については、以下のような結果が報告されています。

  • パスタに塩味を付けるため→〇(効果あり)
  • パスタにコシを出すため→△(多量の場合に効果あり)
  • ゆでているお湯の沸点を上げるため→△(実質的には効果なし)
  • ふきこぼれを抑えるため→〇(効果あり)

 以下で簡単に紹介します。

パスタに塩味を付けるため→〇(効果あり)

 パスタをゆでるときに塩をいれることで、パスタに塩味をつけることができる。これは正しいようです(P.65)。

 塩が含まれた水分が、パスタの表面にしみ込んだり、付着したりするので、食べたときに塩味を感じます。

 これは感覚的にもわかりやすい結果です。

パスタにコシを出すため→△(多量の場合に効果あり)

 パスタをゆでるときに塩をいれることで、パスタにコシを出すことができる。これは、塩の量が多い場合には正しいようです。具体的には、お湯1リットルに対して25グラム以上の塩を入れると、パスタにコシを出すことができるという結果が得られています(P.69)。

 この結果について、パスタに含まれるでんぷんの糊化の面からの考察が加えられています(P.73)。勉強になります。

 ただ、お湯1リットルに対して25グラム以上の塩を入れると、塩味がきつくなりすぎるというデメリットもあります。この場合、ゆであがったパスタを、別鍋に沸かしたお湯で洗って塩分を落とすことで塩味をやわらげることができます。

 また、海塩だとコシが強くなるという結果もあります(P.97)。

ゆでているお湯の沸点を上げるため→△(実質的には効果なし)

 
 パスタをゆでるお湯に塩を入れることで、お湯の沸点(沸騰する温度)を上げ、より高い温度のお湯でパスタをゆでることができる。これについては、沸点が上がること自体は正しいようです。

 理論上、お湯1リットルに対して25グラムの塩を入れると沸点が0.45℃上昇するとのこと(P.81)。科学で習ったモル沸点上昇の原理で沸点が上がります。

 しかし、その程度の沸点の変化は、普通の気圧の変化や、標高の違いなどで起こりうる範囲内といえる(P.83)。

 そのため、実質的な効果はないのではと考察されています。

ふきこぼれを抑えるため→〇(効果あり)

 パスタをゆでるお湯に塩を入れることで、ふきこぼれを抑えることができる。これは効果が認められたようです(P.94)。

 ふきこぼれは、お湯に流出したデンプンによっておこるのですが、お湯に含まれている塩がデンプンの流出を抑えるため、と考察されています。

結論:パスタを塩を入れたお湯でゆでる効果は、パスタに塩味をつけることと、ふきこぼれを抑えること

 普通の家庭のパスタでは、パスタを塩を入れたお湯でゆでると、パスタに塩味をつけられる。プラス、ふきこぼれを抑えることができる。この効果があります。

 反対に言うと、その他の効果は実質的にはないと言えそうです。

 この本がすごいところは、パスタをゆでるお湯に塩を入れた場合の効果を、科学的に実験で検証して結論を出したところだと思います。
 
 実験環境は判断方法もしっかり開示されているので信頼性が高い。評価の中には、人がおいしいとおもうかどうかという主観も含まれていますが、それも大事な指標なのでよいと思います。

 科学者・技術者のみなさんにも納得の結論で、説得力が大きいと思います。

他にも細かい検証がつづき、ラストにペペロンチーノのレシピが掲載

 本『男のパスタ道』には、パスタをゆでるお湯に塩を入れるかどうか、というポイントの他にも、さまざまな条件を変えてパスタがどうしあがるかを実験で検証しています。

  • 塩は、沸騰してから入れるか、沸騰前に入れるか
  • 塩は、海塩を使うか、岩塩を使うか
  • 水は、硬水を使うか、軟水を使うか
  • 油は、オリーブオイルか、サラダ油か、ゴマ油か
  • ニンニクや唐辛子の種類は

 よくこれだけ調べた!と称賛に値します。

 そして、最終的に、この検証結果に基づいたペペロンチーノのレシピが掲載されています。

 しかも、1パターンだけでなく、かける時間や手間をいろいろと調整した3パターンがあります。

 もっとも手間をかける「勝負ぺペロン」、あまり面倒なことをせずに作れる「休日ぺペロン」、時間節約の「時短ぺペロン」のレシピがあります。

 参考にしてペペロンチーノ作ってみます!

今日のみどころ

 ここまでパスタのゆで方、作り方にこだわって、科学的な実験をして、その結果を提示した文献は他にあまりないと思います。ここまで詳しく描写した記述は他にないのではないかと思います。すばらしい。

 さらにその実験結果を踏まえたペペロンチーノのレシピは貴重。すごい。すごすぎる。

土屋 敦 (著) 日本経済新聞出版社 (2014/6/10)