エレベータの閉じ込め事故の発生をスマホ回線で通報するエレベータシステムの特許発明(東芝エレベータ)を紹介

図1

 今回は、エレベータシステムの事故の発生時の技術についての特許発明を紹介します。

 従来、エレベータの閉じ込め事故が複数個所で起こると、監視員が1台の電話で対応できないという問題があります。

 この発明では、エレベータの閉じ込め事故が起こると、ユーザのスマホの回線を利用して監視員に通報します。これにより、1本の電話回線を占有することがなくなり、複数の事故の連絡を受け付けて対処することができるようになります。

 特許第6306133号 東芝エレベータ株式会社
 出願日:2016年11月24日 登録日:2018年3月16日



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エレベータの閉じ込め事故が複数起こると1台の電話で対応できない

 地震や停電などでエレベータが緊急停止すると、エレベータのかごの中に乗客が閉じ込められる「閉じ込め事故」が発生することがあります。

 閉じ込め事故が起きた場合の対処のために、エレベータのかご内に非常呼びボタンが設置されています。かご内に閉じ込められた乗客は非常呼びボタンを押すことで、かごの外部の監視員と通話をすることができます。

 しかしながら、監視員がいる監視センタ側では通常1台の電話で対応しているので、複数の非常呼びボタンが押されると監視員がすぐに対応できないケースが出てくるという問題があります。

ユーザのスマホの回線を利用して監視員に通報する

 この発明のエレベータシステムでは、無線信号を発信する装置(無線信号装置)と、ユーザのスマホなどの携帯端末を利用します。スマホは、無線信号装置からの無線信号を受信することができるようになっていて、その無線信号を受信したときに起動される専用アプリがインストールされています。

 エレベータが緊急停止すると、無線信号装置は無線信号を発信します。スマホは、この無線信号を受信すると専用アプリを起動し、専用アプリによって監視センタと通信回線で接続し、建物の住所などの情報を通報します。

 このようにすることで、複数のエレベータで同時に閉じ込め事故が起きた場合でも、それぞれのエレベータ内のスマホから監視センタに通報がなされ、待ち時間が発生することが抑制されます。通報は、通話ではなく情報通信でなされるので、電話回線を占有することがないという利点があります。

 通報の後は、閉じ込め事故があったエレベータの近くにいる保守員それぞれに連絡がいき、保守員が事故対応をすることができます。

 このようにして、複数のエレベータで同時に閉じ込め事故が起きた場合に、通報が対応が待たされることが回避できます。

【課題】
エレベータが緊急停止した際に、乗りかご内の乗客が閉じ込め状態にあることを外部に確実に知らせることのできるエレベータシステムを提供する。
【請求項1】
 乗りかご内の乗客が所持している携帯端末を利用して非常通報を行うエレベータシステムであって、
 上記乗りかご内に設置され、緊急停止時に無線信号を発信する無線信号装置を備え、
 この無線信号装置から発信される無線信号により、上記携帯端末に予めインストールされた非常通報用のアプリケーションソフトを起動し、予め通報先として設定された外部の監視センタに接続して上記乗りかご内に乗客が閉じ込め状態にあることを通報するものであり、
 上記無線信号装置は、
 建物内のエレベータ制御装置と接続され、無線信号の発信と共に無線信号を受信する機能を有し、
 上記携帯端末は、
 上記アプリケーションソフトが起動されたときに、上記無線信号装置および上記エレベータ制御装置を介して上記監視センタに接続して上記乗りかご内に乗客が閉じ込め状態にあることを通報することを特徴とするエレベータシステム。

今日のみどころ

 単発的に起きるエレベータの閉じ込め事故を想定すると、1本の電話回線だけでも対処できそうですが、地震などによって複数のエレベータで閉じ込め事故が発生すると1本だけでは到底対処できないと思われます。
 ユーザのスマホを使うというのはおもしろい発想ですよね。自分の身を守るためなら専用アプリのインストールをする人も多そうです。地震速報の受信、災害時に必要な情報の提供など、災害から身を守る機能の詰め合わせアプリとしてあったらいいかもですね。