車両の緊急時にオペレータとの通話をできるようにする特許発明(マツダ)を紹介

図1

 今回は、車両の緊急時のスピーカの制御に関する特許発明を紹介します。

 従来、車両(自動車)の車載スピーカの制御において、緊急時の通話のためにスピーカ電源を遮断する技術があります。しかし、スピーカ電源を遮断するとスピーカの故障と判断され、対処が必要になるという問題があります。

 この発明では、原則的にはCANネットワーク経由でスピーカの出力抑制制御をし、それができないときに例外的にスピーカの電源を遮断する制御をします。これにより、緊急時の通話を実現しながら、スピーカの故障と判断されることを回避することができます。

 特許第6252996号 マツダ株式会社
 出願日:2016年3月23日 登録日:2017年12月8日



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緊急時の通話のためにスピーカ電源を遮断すると故障と判断される問題

 車両(自動車)に緊急事態が発生したときに緊急通報センターに緊急通報を行うための緊急通報システムがあります。緊急事態というのは、例えば車両の衝突や乗員の体調不良などがあります。

 緊急通報システムを使って乗員が緊急通報センターのオペレータと通話するときに、通話の妨げにならないように、車載スピーカへの電源供給を遮断する技術があります。

 しかし、車載スピーカへの電源供給を遮断すると、スピーカを駆動するスピーカ駆動ユニットが、スピーカが故障したと判定することがあります。このような判定がなされると、スピーカの故障への対処が必要になるなどの問題があります。

原則CAN経由でスピーカの出力抑制制御をし、できないときに電源遮断制御

図6

 この発明の緊急通報システムでは、オーディオ制御ユニットとスピーカ駆動ユニットとがネットワーク(CAN)で接続されていて、オーディオ制御ユニットはCANを経由してスピーカ駆動ユニットを制御します。スピーカ駆動ユニットは、CANではない回線で車載スピーカに接続されていて、車載スピーカの音声出力を制御します。

 オーディオ制御ユニットが緊急信号を受信すると、原則的には、CAN経由でスピーカの出力音量を低下させる制御をします。この制御が成功すると、スピーカ駆動ユニットからの信号を受信することができるので、制御が正常に完了したか否かがわかります。

 また、制御が正常に完了しなかった場合、オーディオ制御ユニットは、スピーカ駆動ユニットへの電源供給を遮断します。

 このように、原則的にはCANを通じてスピーカ駆動ユニットの出力音声を抑制する制御をするので、スピーカが故障したと判定されることを回避できます。また、例外的に、CANを通じたスピーカ駆動ユニットの制御がうまくいかない場合にスピーカへの電源供給を遮断することで、確実に通話の妨げになる音声出力を抑制することができます。

【課題】
緊急通報時において
、通話の妨げになる音声出力を確実に消音すると共に、構成ユニットの故障判定を回避することが可能な緊急通報システムを提供する。
【請求項1】
 車両緊急信号の発生に応答して緊急通報センターへ緊急通報を行うための緊急通報ユニットと、
 車内通信回線を介して前記緊急通報ユニットに接続されたオーディオ制御ユニットと、
 このオーディオ制御ユニットと通信可能に接続されると共に前記オーディオ制御ユニットによる制御に基づいて車載スピーカを駆動するスピーカ駆動ユニットと、を備え、
 前記緊急通報ユニットは、
 前記車両緊急信号を受信したときに、前記車載スピーカの音声出力を禁止又は低減させるための消音要求信号を前記オーディオ制御ユニットへ送信し、前記消音要求信号に基づいて前記車載スピーカの音声出力が禁止又は低減された旨の消音確認信号を前記オーディオ制御ユニットから受信する消音制御部と、
 前記消音制御部が前記消音要求信号の送信に応答して前記消音確認信号を受信しない場合に、前記スピーカ駆動ユニットへの電源供給を遮断する電源制御部と、
を備えた、緊急通報システム。

今日のみどころ

 自動車などの車両内ではネットワークを介していろいろな情報のやりとりや機器制御をするようになってきています。でも、ネットワークが常に動くわけではないので、ネットワークが動かないときを想定して別の制御方法を用意しておくという方針のアイデアです。

 こういう方向性の考えは、いろいろな場面に適用できると思います。考えてみましょう。