EtherCATのマスタを冗長化して時刻同期精度を向上する特許発明 日立産機システム

図3

 従来、マスタの通信ポートの冗長化による時刻同期精度低下などの3つの問題がありました。

 この発明では、マスタの1つのポートを折り返し接続します。これにより、従来の3つの問題を解決します。

 特許第5394283号 株式会社日立産機システム
 出願日:2010年2月25日 登録日:2013年10月25日



 ※特許の本の紹介。
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マスタの通信ポートの冗長化による時刻同期精度低下などの問題

 Ethernetの通信規格を利用したEtherCATという通信規格が利用されています。EtherCATでは、Ethernetのフレーム構成を用いて通信し、リング型トポロジのネットワークを構成することができます。

 EtherCATのネットワークには、通信を制御するマスタと、マスタによって制御されるスレーブの2種類のホストが接続されます。マスタがダウンしても通信を継続できるように、マスタが2つの通信ポートをもつことで冗長化する構成も検討されています。

 しかし、マスタが2つの通信ポートをもつようにする場合、時刻同期精度の低下、コマンドの整合性の維持、ソフトウェア開発の複雑化といった問題がありました。

マスタの1つのポートを折り返し接続する

図8

 この発明のEtherCATネットワークのマスタは、2つの通信ポートによってスレーブに接続します。この接続の形態は、ケーブルのつなぎ方は従来と同じと考えらえれますが、論理的な通信経路が従来と異なります。

 すなわち、マスタの2つの通信ポートのうちの1つの通信ポートは、スレーブへのデータの送信に使用します。そして、マスタのもう1つの通信ポートは、受信したデータをそのまま送信するように構成されています(図8)。そのため、1つの通信ポートから送信されたデータは、リング型トポロジのネットワークを一周してもう1つの通信ポートに到達しますが、そこで折り返してネットワークを逆回りにもう一周してもとの通信ポートに戻って受信されます。

 ネットワークの一部に障害が発生すると、その障害箇所の前後で通信が折り返されるように接続されます。

 このようにすることで、ネットワークに障害が発生しているときと発生していないときとで通信経路の長さが同じになることによって、時刻同期精度の低下の問題が解決されます。他の2つの問題も解決されます。

【課題】
時刻同期の精度向上、EtherCATコマンドの整合性を維持し、2ポート構成によるソフトウェア開発を容易に行うことができるネットワークを構成する情報処理装置及びそれを用いた制御用ネットワークシステムを提供する。
【請求項1】
 演算部と、パケットをネットワークに送信する送信部とネットワークからのパケットを受信する受信部とからなる通信部が少なくとも2つと、前記演算部と前記通信部間に設けられ通信経路の制御を行う冗長化通信制御部とを備え、ネットワークを介して1つ又は複数の制御対象を制御する情報処理装置において、
 前記演算部は、前記制御対象への指令値を前記冗長化通信制御部へと送信し、前記制御対象への通信結果を前記冗長化通信制御部から受信し、
 前記通信部は、前記冗長化通信制御部から受信した通信内容を、前記ネットワークを介して、前記制御対象に送信し、前記制御対象から受信した結果を前記冗長化通信制御部に送信し、
 前記冗長化通信制御部は、前記ネットワークの経路の状態を判定する通信経路状態判定部と、前記演算部と少なくとも2つの前記通信部間の接続を切り替える冗長経路切替部とを備え、
 前記1つ又は複数の制御対象と前記通信部とを接続する前記ネットワークは論理的なリングトポロジを有し、前記冗長経路切替部は、前記通信経路状態判定部による前記通信経路の状態判定に基づいて、前記通信部同士の接続経路及び前記通信部と前記演算部との通信経路を互いに異なる論理的なリングトポロジの通信経路に切り替え,
 前記通信経路状態判定部は、前記ネットワークの通信経路の異常を判定する通信経路異常判定部と、前記ネットワークの通信経路の正常を判定する通信経路正常判定部とを有し、
 前記通信部は、パケットを前記ネットワークに送信する送信部と、パケットを前記ネットワークから受信する受信部とを有し、
 前記冗長経路切替部は、前記通信経路正常判定部が通信経路を正常と判定している場合は、前記演算部と一方の前記通信部とを接続すると共に、他方の前記通信部の受信部と送信部とを接続して論理的なリングトポロジの通信経路を構成し、前記通信経路異常判定部が通信経路を異常と判定している場合は、前記演算部を一方の前記通信部の送信部と接続すると共に他方の前記通信部の受信部と接続し、前記一方の通信部の受信部と前記他方の通信部の送信部とを接続して論理的なリングトポロジの通信経路を構成することを特徴とする情報処理装置。

今日のみどころ

 EtherCATの冗長化構成についての発明です。EtherCATは、Ethernetの物理層、データリンク層を利用したリング型のネットワークプロトコルという感じの技術です。EtherCATは、トヨタが工場のIoT化に採用したこともあって、これからも重要度を増していくと思います。

 この特許の明細書には、EtherCATのフレーム構成など基本的な情報もいろいろ記載されているので、EtherCATの勉強にも使えます。本サイトでは、EtherCATに関する発明もどんどん紹介していきます。