可視光通信において、受信信号のレベル変化に対する従来の対策では、回路が複雑になる問題、応答が遅延する問題があります。これらの問題を解決する発明です。
この発明の受信装置は、受信信号の交流成分だけを増幅した後、基準値との比較により信号を取得します。また、外乱光の影響を排除する工夫もなされています。AGCを使わないので回路が複雑になる問題、応答が遅延する問題を回避できます。
特許第5834188号 パナソニックIPマネジメント株式会社
出願日:2013年3月6日 登録日:2015年11月13日
受信信号のレベル変化に対してAGCを用いると回路が複雑になる問題
可視光通信では、送信装置が送信する光を受信装置が受信して、その光の強弱の変化によって情報を伝えます。受信装置が受信する光の強度は、送信装置と受信装置との距離に依存して大きく変化します。例えば距離が0.5mの場合と比較して、距離が4mの場合では受信信号のレベルが1/64にまで減衰します。受信信号のレベルの変動が大きいと正常な受信ができなくなります。
従来、受信装置がAGC(Automatic Gain Control)によって利得を変化させることで、受信信号のレベルを一定に保つ機能があります。これにより受信信号のレベルの変動を抑制することで、受信信号を正常に取得することに寄与します。
しかし、AGCを用いる構成は、回路が複雑である、応答が遅い場合があるなどの問題があります。そのため、AGCを用いない構成が望まれています。
交流成分だけを増幅した後、基準値との比較により信号を取得
この発明の可視光通信の受信装置は、まず受信信号の交流成分だけを増幅した信号を生成します。直流成分はカットします。
そして、増幅した交流成分からデジタル波形を生成し、デジタル波形のサンプリング間隔ごとの値の差分(差分デジタル値)を算出します。この差分デジタル値と基準値との大小判定に基づいて、デジタル波形の立上がりと立下がりを検出して、受信信号を復調します。
ここで、上記の基準値は、デジタル波形のピーク値に基づいて定められます。デジタル波形の振幅が大きければ大きい基準値、デジタル波形の振幅が小さければ小さい基準値が定められます。すなわち、取得されるデジタル波形の振幅の絶対値にあまり依存することなく、基準値との比較によって相対的に、受信信号を取得することができます。また、AGCを用いないので、回路の複雑さ、応答の遅延も回避します。
また、外乱光の影響を排除すべく、立上がりの後すぐにもう一度立上がりが検出される場合などには、立上がりではないと判定します。立上がりが2回連続して検出される場合には、外乱光が含まれていた可能性があるためです。
なお、可視光通信で用いられるI-4PPM方式の変調で、全体の3/4のスロット時間で受信信号のレベルがハイになり、そのハイレベルの期間に外乱光が到達する場合に、この外乱光の影響を排除することができます。しかしながら、受信信号のレベルがローである、残りの1/4のスロット時間に外乱光が到達すると、うまく外乱光の影響を排除することができない可能性があるのではないかという疑問がわきました。
AGCを用いずに、可視光の信号のレベルの大きな変化に対応でき、かつ、短時間に可視光の信号を受信し復調することができる可視光受信装置および可視光受信方法を提供する
【請求項1】
シンボル時間毎に位置変調した変調信号に応じて強弱変化する可視光を受光し、前記可視光の受光光量に応じた電圧信号を出力する第1変換部と、
前記電圧信号に含まれる直流分をカットすると共に交流分を増幅して出力する増幅部と、
前記増幅部から出力された電圧信号を処理して、前記変調信号に対応する復調信号を出力する処理部と、を具備し、
前記処理部は、
サンプリング時間毎に、前記増幅部から出力された前記電圧信号をAD変換値にAD変換する第2変換部と、
複数の前記AD変換値を用いた差分演算により、差分デジタル値を算出する第1演算部と、
複数個の前記差分デジタル値のピーク値に応じた+側基準値と-側基準値とを算出する第2演算部と、
前記差分デジタル値が前記+側基準値よりも大きくなる立上ポイントと、前記差分デジタル値が前記-側基準値よりも小さくなる立下ポイントとを検出する検出部と、
前記立上ポイントと該立上ポイントの直後に検出される前記立下ポイントとの間の第1サンプル期間と、前記立下ポイントと該立下ポイントの直後に検出される立上ポイントとの間の第2サンプル期間と、を算出する第3演算部と、
時系列的に交互に生じる前記第1サンプル期間と前記第2サンプル期間とに基づいて、前記シンボル時間毎の前記復調信号を算出する第4演算部と、を有する、
可視光受信装置。
今日のみどころ
可視光通信の送信装置と受信装置との距離によって信号強度が大きく変化する場合でもAGCを用いずに受信信号を取得でき、また、外乱光の影響を排除することができる発明です。
この発明の理解には、可視光通信に関する前提知識がある程度必要ですが、キモは、波形の立上がりと立下りとを正確に認識するための工夫であり、シンプルです。前提知識が必要な分、発明の理解に大変さがありますが、がんばって読みましょう。