アメリカで特許をとるための手続きは、アメリカの弁理士がします。出願人(特許を取りたい人や会社)は、どんな手続きをしたいかをアメリカの弁理士に説明することになります。
そのためには、アメリカの特許制度をある程度知っている必要があります。
今回は、アメリカの特許制度を説明した本を2冊紹介します。
私は特許事務所でクライアントの発明についてアメリカで特許をとる手続きをすることも多いです。私は仕事がらこの2冊の両方とも持っています。ちょうど対照的な特徴をもつ2冊です。
以下で紹介します。本選びの参考にどうぞ。
アメリカで特許をとるときの手続き
アメリカで特許をとるための手続きは、アメリカの弁理士がします。出願人(特許を取りたい人や会社)は、どんな手続きをしたいかをアメリカの弁理士に説明することになります。
出願人→アメリカ弁理士→アメリカ特許庁(USPTO)
日本の会社で、普段は日本の弁理士を介して特許の手続を行っている場合には、日本の弁理士も間にはいることも多いです。
出願人→日本の弁理士→アメリカ弁理士→アメリカ特許庁(USPTO)
出願人は、手続の方針などについての説明を日本の弁理士にすると、その内容がアメリカの弁理士に伝えられて、アメリカ特許庁への手続が進むようになっています。
アメリカの弁理士に方針を説明できる程度に特許制度を知っておけば最低限OK
出願人がアメリカの弁理士に手続きの方針を説明するためには、アメリカの特許制度を理解する必要があります。
ただし、実際に手続きをするのはアメリカの代理人であって自分ではないので、アメリカの弁理士に方針を説明できる程度に、知っておけば十分ということになります。
また、日本の弁理士(特許事務所)も同様で、アメリカの弁理士に説明できる程度に、アメリカの特許制度を知っておけば十分です。ただし、出願人から質問を受けたときにプロとして適切に説明できる必要がありますので、出願人が知らなければならない知識よりも、一段上のレベルで知っておく必要があります。
法改正対応 米国特許手続ハンドブック
第2章 特許出願
第3章 特許要件
第4章 審査
第5章 早期権利化のために―早期審査
第6章 発明者決定手続
第7章 許可通知及び特許の維持
第8章 特許の修正
第9章 特許の攻撃
アメリカの特許をとるために必要な知識などがほどよいレベルでわかりやすくまとめられています。
例えば、以下の内容について解説されています。また、手続について時間を横軸とした図や、制度や費用の比較表を用いた説明もあり、実際の手続きに用いられる書面のサンプルとその説明もあります。読み手にわかりやすいような親切設計がなされています。
・特許出願の種類(仮出願、本出願、バイパス出願、継続的出願、継続出願、分割出願など)について
・新規性、非自明性、ダブルパテントなどの特許要件
・審査時の対応(限定要件、選択要求、オフィスアクション、RCE)費用について
・早期審査、PPH、PCT-PPH
日本から米国への特許出願に必要かつ十分なレベルの知識の説明
この本の知識があれば、出願人、弁理士(特許事務所)ともに、必要かつ十分なレベルの知識を得られると思います。ほぼ困らないレベルになれると思います。
ちなみに、タイトルにある「法改正」というのは、オバマ大統領のときの2011年の法改正で、先発明主義から先願主義への改正がなされたときのことを指しています。
この法改正はアメリカの特許制度の大きな変更、先発明主義から先願主義への変更が含まれています。この法改正の前と後では制度がだいぶ異なるので、本を選ぶときには法改正に対応したもの、つまり、法改正後の制度についての本を選ぶことに注意しましょう。
米国特許実務―米国実務家による解説―
第2章 特許出願
第3章 実質的内容に関するオフィスアクション(Office Action)への対応
第4章 米国におけるクレーム解釈、および、クレーム作成の考え方等(実体的事項)
第5章 オフィスアクションの種類とその対応
第6章 審判(Appeal)
第7章 特許発行後の手続き
第8章 情報開示義務制度および限定要求
第9章 特許期間の調整および放棄等
第10章 その他
アメリカの特許をとるために必要な知識などが、かなり詳細なレベルでまとめられています。2011年の法改正に対応しています。
例えば、特許出願や審査に関する制度について、条文(英語と日本語)や審査基準(MPEP)を参照しながら、詳細に説明されています。また、クレーム(請求項)を作成する時の考え方、クレームを広くするための訳語、注意点なども詳細にまとめられています。
また、オフィスアクション(拒絶理由通知)について新規性や非自明性などのパターンごとの説明や、その対応方法などについても詳しく説明されています。
実際に手続きをするのに必要な正確な知識まで詳細に記載されています。かなり深いレベルで知識をもった著者で信頼できる内容であると思います。
ただ、図や表による説明があまりないことが残念な点です。全体的な手続きをわかっている前提で、詳細な内容についてよく知りたいという場合にとても参考になる本、という位置づけになると思います。
高いレベルの知識の説明
この本には、高いレベルの知識の説明がなされています。
出願人には、普通は、このような高いレベルの知識は必要ないのではと思います。知っているに越したことはないのですが、日本の弁理士又は米国の弁理士に問い合わせて情報を得ることができるからです。
また、日本の弁理士(特許事務所)でも、このレベルの知識の全部を把握する必要まではないと思います。
でも、実務上使える知識やテクニックが含まれているので、他の人より一段上のレベルの知識を得たいという場合は勉強してステップアップしていきましょう。
そのうえで、細かい部分は、米国の弁理士に最新情報を問い合わせながら高度な特許実務を遂行するのがよいと思います。新しい判例がでて最適解が変わっていくことも多いからです。
今日のみどころ
アメリカの特許制度の解説本を2冊紹介しました。
まずは、『改正法対応 米国特許手続ハンドブック』で必要十分なレベルを確保できます。
より深い理解が必要な方は『米国特許実務―米国実務家による解説―』をどうぞ。
アメリカでもいっぱい特許とりましょう!