2回のキャリアセンス後に情報送信してフレームの衝突を回避する特許発明 GEN

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 無線マルチホップ通信システムの各装置が情報を共有するときに、通信フレームの衝突により全装置に情報が行き渡らなくなる問題がありました。

 この発明では、周囲の通信装置へのフレームの送信を、1回目のキャリアセンスをした後、他ノードと異なる所定の待ち時間を経過し、2回目のキャリアセンスの後に行うことがポイントです。これにより、フレームの衝突を回避し、情報を全装置に行き渡らせます。

 特許第5380356号(特開2011-228889) 株式会社ジー・イー・エヌ
 出願日:2010年4月19日 登録日:2013年10月4日



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フレーム衝突により全ノードに情報が行き渡らなくなる問題

 無線マルチホップ通信システム(無線マルチホップネットワーク)は、センサネットワークなどに利用されます。無線マルチホップ通信システムでは、各装置(ノード、例えばセンサ)が共通の情報を共有することがよく行われます。

 共通の情報を共有するのに最も単純な方法として、自装置が保有する情報をブロードキャスト送信し、この情報を受信したノードがこの情報を保存し再びブロードキャスト送信する、という方法があります。システムのすべての装置がこのような送信を行うと、すべての装置に情報が生き渡ります。

 しかし、この方法だけではフレームの衝突が生じやすいという問題があります。ブロードキャスト送信では、一般に受信確認(ACK)がないので、フレームの衝突があるとシステム内の全ノードに情報が行き渡らなくなるという問題があります。

2回のキャリアセンスと待ち時間を用いて衝突回避

 本発明では、2回のキャリアセンスと、装置ごとに互いに異なるように定められた所定の待ち時間とを用いてフレームの衝突を回避するようにします。具体的には、1回目キャリアセンスをし、待ち時間が経過した後に2回目キャリアセンスとします(図5)。キャリアセンスとは、他の装置からの搬送波(キャリア)を受信するか否かを検知することです。

 また、各装置が、共有する対象の情報とその情報の新しさを示す更新回数とを管理しており、これらの情報を周囲のノードとやりとりすることで、より新しい情報を取得することで、情報を更新します。

 キャリアセンスと待ち時間とを使うというだけなら、Wi-Fi(IEEE802.11a,b,g等)も当てはまりますが、これらを上記の順番で用いることで効果的に衝突回避の効果を実現させると考えられます。また、通信経路の構築などのために比較的複雑な処理を要するルーティングより処理不可が小さい利点もあります。

 なお、ある情報をネットワークの全ノードに行き渡らせることをフラッディング(flooding)ともいいます。特定の通信経路で特定の宛先ノードに情報を伝達するルーティングより単純なアルゴリズムで実現できる利点があります。

【課題】
高コストのダイナミック・ルーターを必要とすることなく、ネットワーク中の全ての各ノードが互いに各ノードに関する情報をシンプルな構成で且つ低コストで交換・共有することができる、マルチホップ通信システムを提供することを目的とする。
【請求項1】
複数のノードにより構成されるマルチホップ通信システムであって、
前記各ノードは、
少なくとも、全ての各ノードのIDと、「各ノードに関する情報であって全てのノードが互いに共有すべき情報」(以下「各ノードに関する情報」という。)と、各ノードに関してその情報が更新された回数を示す回数情報とを、互いに対応付けて記録しておく記録手段と、
前記記録手段に記録されている自らに関する情報を更新すると共に、自らに関する情報に関する前記回数情報を更新する第1更新手段と、
前記記録手段に記録されている、自らを含む全ての各ノードに関する情報及び前記回数情報を、近傍の他のノードに無線送信するための無線送信手段と、
近傍の他のノードから無線送信された前記全ての各ノードに関する情報及び前記回数情報を受信するための受信手段と、
近傍の他のノードからの各ノードに関する情報及び回数情報を受信したとき、自らの記録手段に既に記録されている全ての各ノードに関する回数情報と前記受信した全ての各ノードに関する回数情報とをそれぞれ各ノード毎に比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記受信した或るノードに関する回数情報が自らの記録手段に既に記録されている該当するノードに関する回数情報より大きいとき、自らの記録手段に記録されている前記該当するノードに関する情報と回数情報を、前記受信した情報に基づいて更新する第2更新手段と、
前記各ノードから近傍の他のノードへの、各ノードの前記記録手段に記録されている全ての各ノードに関する情報及び回数情報の送信が、所定のタイミングで行われるように、前記無線送信手段を制御する送信制御手段と、を備えており、
前記送信制御手段は、各ノードが、他のノードが前記の全ての各ノードに関する情報及び回数情報を送信していないことを検出し、その後各ノード毎に互いに異なる所定の待ち時間が経過するのを待ち、その後さらに他のノードが前記の全ての各ノードに関する情報及び回数情報を送信していないことを検出してから、自らの記録手段に記録されている前記の全ての各ノードに関する情報及び回数情報を近傍の他のノードへ送信するように、前記無線送信手段を制御するものである、ことを特徴とするマルチホップ通信システム。

今日のみどころ

 キャリアセンスと待ち時間(バックオフ)を用いる通信方法は、Wi-Fi (IEEE802.11a,b,g)等でも用いられている技術です。本発明は、これらの技術を組み合わせていままでより高い効果を発揮することが認められたと考えられます。

 要素技術の組み合わせでも、いままでにないもので、しかも効果が大きければ、進歩性が認められる可能性があります。従来技術と新技術とを慎重に見比べて特許性が認められ得る発明を発見する力も重要であると思います。