1クリックで商品注文するシステムで在庫の有無により注文を結合する発明 アマゾン

図3

 従来のネットショッピング(ショッピングカートモデル)では少ない商品を注文するときにもやりとりが多いという問題がありました。

 この発明では、あらかじめユーザから受け付けた購入に必要な情報を使って、1クリックで注文を完了し、在庫の有無により注文を結合します。これにより、商品購入の際のユーザの煩わしさを解消します。

 少し古いですが、アマゾンの1クリック注文に関する特許の1つです。

 特許第4937434号 アマゾン コム インコーポレイテッド
 出願日:1999年10月20日(分割の原出願日:1998年9月14日) 登録日:2012年3月2日



 ※特許の本の紹介。
 特許の申請(出願)をする技術者や研究者が知っておかないといけない特許の知識がわかりやすくまとめられている良著です。

ショッピングカートモデルでは少ない商品を注文するときにもやりとりが多い

 インターネット経由で商品を購入する販売システムがあります。インターネット上の通信販売、ネット通販、ネットショッピングを意味しています。電子商取引とも呼ばれています。

 この販売システムでは、ショッピングカートモデルを基礎にしたものが一般的でした。購入者がWebページを見ながら商品を選択していくと、選択された商品が一旦ショッピングカートに入れられます。その後、ユーザが選択を完了して購入に必要な情報を入力すると、ショッピングカートに入れられた商品がチェックアウト(発注)されるしくみです。

 このモデルは、購入者側に多数のやりとりが発生するという欠点がありました。例えば、商品を1つだけ注文する場合でも、複数のWebページを順にたどっていく必要があり、煩わしいという問題がありました。

1クリックで注文、在庫の有無により注文を結合

図1


図3

 この発明では、購入に必要な情報をあらかじめユーザから受け付けてサーバに保存しています。ユーザの端末は、ユーザが購入する商品を特定する情報をサーバに送信すると、サーバから、シングルアクション注文(1クリックによる注文)のためのボタンを受信して表示します(図1のボタン103a)。

 ユーザがこのボタンに対して操作をすると、その商品をショッピングカートにはストアせずにサーバに情報を送信します。サーバでは、あらかじめ受け付けて保存している購入に必要な情報を特定して、注文が完了します。

 ここでさらに、複数のシングルアクション注文がある場合に、在庫のある注文か否かに応じて、注文を結合することも発明のポイントになっています。図3のように、在庫があって出荷可能な商品がまとめて注文情報106として結合され、在庫がない商品がまとめて注文情報107として結合されています。

 これにより、商品購入の際のユーザの煩わしさを解消します。

【課題】
ある購入者がアイテムを1つだけ注文する場合、注文プロセスの種々ステップを確認し、購入者固有注文情報を待ち、表示し、更新するオーバヘッドは、その項目を選択すること自体のオーバヘッドよりもはるかに大きくなる可能性がある。
【請求項1】
 アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法であって、
 前記クライアント・システムのクライアント識別子をサーバ・システムから受信することであって、前記クライアント識別子は、前記クライアント・システムから前記サーバ・システムが予め受信した前記ユーザの購入者固有注文情報と対応付けて前記サーバ・システムに予めストアされていること、
 前記クライアント・システムで前記クライアント識別子を永続的にストアすること、
 アイテムを特定する情報の要求を前記サーバ・システムに送信すること、
 前記アイテムを特定する情報と、前記特定されたアイテムの要求を受け付け、ストアしておくための記憶領域を示すショッピングカートの指示部分と、前記特定されたアイテムを注文するのに実行すべきシングル・アクションの指示部分とを、前記サーバ・システムから受信して、ディスプレイに表示すること、
 前記シングル・アクションが実行されることに応答して、前記特定されたアイテムの注文要求を、前記ショッピングカートにはストアせずに、前記クライアント識別子とともに前記サーバ・システムに送信することにより、前記サーバ・システムが、前記受信したクライアント識別子により、予めストアされた前記購入者固有注文情報を特定し、前記シングル・アクションの選択のみによって注文を完成させることであって、前記シングル・アクションの実行により、他のアイテムについての注文であって、前記クライアント識別子に関連付けられた1または複数の以前のシングル・アクション注文を、そのアイテムの有用性に基づいて結合し、前記有用性は、短期間または長期間に分類され、前記短期間は、
在庫のある注文に相当し、注文要求を受けたときに出荷可能であり、前記長期間は、注文要求を受けたときに出荷可能でない注文に相当すること、および、
 前記特定されたアイテムの前記注文要求を、ある時間期間内にキャンセルするのに実行すべき指示部分を前記ディスプレイに表示すること
 を備えたことを特徴とする方法。

今日のみどころ

 有名になったアマゾンの1クリック注文の特許の日本バージョンの1つです。アマゾンのページの「1-Clickで今すぐ買う」というボタンを押すと細かい設定を何もせずに購入が完了してしまう、あの技術です。なお、本家のアメリカの特許の権利範囲とは異なる可能性がありますのでご注意ください。アメリカの特許は1997年9月に出願され、2017年9月に特許権の存続期間が終了しています。

 技術的な観点でいうと、1クリックで注文を完了させる技術(請求項1の16行目までの部分)だけでは、特許にすることができなかったことがわかります。そこで、在庫があるか否かによって注文をまとめる技術をさらに追加して特許が得られています。

 この特許は、「1クリック注文」という名前が一人歩きしてしまって、1クリックで発注を完了するネット通販システムがどんなものでも権利侵害になってしまうというような誤解があったと思います。私も今回初めて請求項を確認したのですが、1クリックで発注する技術だけでは特許にすることができなかったことが分かります。請求項を読んで、権利範囲をしっかり確認するようにすれば、それほど恐れることはない特許だと思います。