通信事業者のネットワークの品質測定に関する発明です。従来、ネットワークの通信品質の推定のために通信量を増やしてしまう問題があります。
この発明の装置は、大きいデータサイズのTCPセッションに基づいて通信品質の学習データを構築します。これにより、高い精度で通信品質を推定できます。
特許第6033069号 KDDI株式会社
出願日:2012年12月11日 登録日:2016年11月4日
ネットワークの通信品質の推定のために通信量を増やしてしまう問題
ネットワークの通信品質の推定に関する発明です。通信品質の推定は、通信事業者が提供するネットワークの品質を推定し、その品質に基づいてネットワークの品質改善の検討をしたりするのに役立ちます。
従来からネットワークの通信品質の推定が行われています。例えばネットワークを介して接続された2つの装置の間で試験用のパケットをやりとし、TCPスループットや再送発生率などを測定することで行われています。
しかし、この方法では品質測定のためのパケットの送受信を行うことにより通信量を増やしてしまいうという問題があります(特許文献1)。その他の従来方法でも、測定に伴って処理量やトラフィックが増加する等の問題があります。
TCPセッションのデータサイズに基づいて高い精度で通信品質を推定
この発明の通信品質推定装置は、通信事業者のネットワークの出入り口の通信装置の位置でのパケットの流量などを取得します。具体的には、例えば、通信事業者のコアネットワークに接続されるアクセスルータの位置でのパケットキャプチャにより取得します。
そして、取得したデータに含まれるTCPフローを用いて品質測定します。ここで、TCPのフロー制御の特徴をうまく利用しています。
TCPのフロー制御によりスループットは、通信開始から徐々に上昇し、ネットワークの実品質に応じた一定値に近い値をとるようになります。TCPセッションのうち、データサイズが大きいセッションは、通信時間が長いので通信開始直後のフロー制御の影響がスループットに影響しにくいという性質があります。反対に、データサイズが小さいフローは、通信時間が短いので、通信開始直後のフロー制御の影響がスループットに影響しやすいという性質があります。
そこで、通信レートから通信品質を推定する辞書を構築するときに、データサイズが所定以上のTCPコネクションに基づいて構築します。これにより、フロー制御の影響を受けにくい辞書が構築されます。そして、その辞書を用いて、データサイズが所定以下のTCPセッションの通信品質を推定します。
このようにすることで、正確な推定ができる辞書を構築するとともに、この辞書を用いてデータサイズが所定以下のTCPセッションの通信品質を高い精度で推定することができます。
通信パケットをパッシブにキャプチャして通信パラメータを分析し、データサイズが大きくてフロー制御の影響を受けにくいセッション等の分析結果に基づき、データサイズが小さくてフロー制御の影響を受けやすいセッション等のスループットを、高い精度で推定できる通信品質推定装置を提供する。
【請求項1】
セッションまたはコネクションを通信単位として送受されるパケットをパッシブに監視して通信品質を推定する通信品質推定装置において、
各通信単位が集約される経路に到着したパケットをキャプチャするキャプチャ手段と、
前記キャプチャされたパケットの属性情報、パケットサイズおよび到着時刻を通信単位ごとに監視結果として管理する監視結果管理手段と、
前記各パケットの監視結果に基づいて、通信単位ごとに通信レートを含む通信パラメータを分析するネットワーク品質分析手段と、
スループットがフロー制御の影響を受けにくい通信単位の通信レートの時系列およびスループットを教師データとして、任意の通信単位の通信レートの時系列からスループットを推定する通信品質辞書を構築する学習手段と、
スループットがフロー制御の影響を受け易い通信単位の通信レートの時系列を前記通信品質辞書に適用して当該通信単位のスループットを推定する品質推定手段とを具備したことを特徴とする通信品質推定装置。
今日のみどころ
TCPのフロー制御によるスループットの変動に着目した発明です。データサイズの大小と、フロー制御の影響の関係をうまく利用して、予測の精度が高い学習データを用いて、予測の精度が低い部分の品質の推定をするという方法をとっています。
何かのデータの推定をしようとするとき、同じデータの中でも精度の良いものを集めたグループから推定するようにすると、推定精度を上げることができそうです。こういうパターンの課題があれば、同じような考えが使えるかもしれませんね。