技術を説明する技術/わかりやすく技術を説明するコツ

技術を説明する技術/わかりやすく技術を説明するコツ

 私は、携帯電話やWi-fiなどの通信機器メーカで研究開発職をしていたことがあります。試行錯誤しながらの仕事でしたが、初期の数年間は研究内容をうまく説明することができませんでした。そんな私が、どうにか技術のポイントをおさえて説明できるようになった経験に基づいて、「技術を説明する技術」を紹介します。

 技術者や研究者がおちいりがちなポイントです。技術者、研究者、技術者や研究者と話をする機会がある方に参考になる情報です。考え方の方向性を少し変えるだけで効果がでます。

新しく立ち上がった研究開発部門で、上司も私も未熟だった

 私が所属していた通信機器メーカは、それまで研究開発部門を持っていませんでした。景気が思わしくない中、何か新しいことを始めようという試みの一つとして、新しく研究開発部門を立ち上げました。その部門には、それまでコーディングをしていた人、技術営業をしていた人、製品の検査をしていた人などが集まりました。まさに寄せ集めの部隊です。

 しかしながら、新しく立ち上がった部門では、みんなが未熟でした。新しい技術をどのように検討し、どのような成果をどこにアウトプットすればよいのか、中心になってリードする人がいなくて試行錯誤ばかりしていました。

 私は、ある程度の通信技術の知識をもって、新しいアイデアを出すこと自体はできると思っていたのですが、自身のアイデアを説明してもなかなか理解してもらえないのでした。

 さらに、上司も未熟でした。私のような未熟な研究者からどのようにアイデアを引き出すのかがわかっていなかったのでしょう。そんな説明ではわからない、というばかりでした。

わからないと言われるたびに、より正確に、より細かく

 私は、研究内容をうまく説明することができませんでした。自身の説明がわからないと言われるたびに、より正確に、より細かく、技術の説明をしようとしました。具体例を出したり、少し違うものにたとえてわかってもらおうと工夫しました。しかし、そのパターンに陥るとなかなか分かってもらえず、そのうち上司があきらめるということが続きました。

 それは、上司が望む方向ではなかったんです。しかし上司もどう導けばよいかわからずに、そんな説明ではわからないというばかり。手本となる人も、リードしてくれる人も、いない状況でした。

5分で半期の成果を発表する成果発表会で「伝えられない」経験

 そんな折、半期(6ヶ月)ごとの成果を発表する会(成果発表会)が開催されるようになりました。10人以上の研究者がいこともあってか、1人に与えられた発表時間は5分でした。5分で半期の成果を発表するということです。その5分に何を発表するかを決めるのも研究ということです。最後に投票があって1番の人にトロフィーが贈られます。

 最初の数回、私は、学会発表のように実験条件や技術の詳細なメカニズムなどを説明しました。5分という時間の短さを考慮して、前提部分などの情報をできるだけカットして、技術の効果をわかりやすく説明することを目指しました。

 しかし、半期の技術的な成果を5分に凝縮することはかなり難しいです。そして、凝縮しすぎると聴取者がついてこれないのです。そのため、5分をオーバーし、しかも、何も伝わらない、というどうしようもない状況に陥りました。

課題と解決後の姿をわかりやすく伝える

 いろいろ考えたあげく、このようなことに思い至りました。技術的な成果は5分ではどうせ伝わらないので、説明しなくてよいのではないかと。その代わり、その研究をなぜやったのか、なぜ求められるのかをわかりやすく説明すればいいのではないかということです。

 具体的に言えば、例えば実験の条件を説明したり、グラフを使って技術的成果が得られるパラメータを特定したりする過程は複雑すぎて、5分では伝えられません。結論だけ言ってもあまり意味がありません。

 その代わりに、わかりやすい言葉で、解決されるべき課題、その研究がなぜ必要とされるのか、その研究の結果、解決後の姿がどのようになるのかということをわかりやすく説明すればいいのではないかということです。

 これが1つの正解だったのです。

 このやり方でいけば、半期の成果を5分以内に余裕をもって説明できます。ゆっくりしゃべる余裕もでるので、聞き手も聞きやすいでしょう。5分以内に伝えられるレベルの内容に絞って、それを丁寧に説明するのです。

 上司にとっては、技術の細かい説明のような中身はある程度重要なのですが、もっと大事なのは、その技術を外から見た「外見」なのです。上司は、技術の要点だけ理解して、さらにその上司に説明をするときに使えるネタがほしいのです。細かい部分は担当者がうまくやってくれればいいということです。

ミクロではなくマクロへ/中身ではなく外見へ

 最初の数回の発表会で私がやっていたことは、いわば、わからないと言われるほどミクロな部分に入り込んでいくようなものでした。どんどん技術の中身の細かい部分にフォーカスしていきます。上司から見ればどんどん興味のない方向へ突き進んでいきます。

 新しいやり方は、反対に、マクロな見方をしていくようなものです。わからないといわれたら、全体を見渡せるところまで立ち戻ります。また、中身に入り込むではなく、技術のスタートとゴールだけにフォーカスし、中身はブラックボックスとしておくような感じです。中身のことは、聞かれたときに適切なキーワードを交えて答えられればよいのです。

 このように考え方の方向性を少し変えるのが、わかってもらえるコツの1つです。大学や会社などの組織では、研究の目的や成果を上司にわかりやすく説明することが求められます。一方、上司は様々な仕事を抱えていて忙しいです。そのため、技術の「外見」をうまくまとめた説明が好まれます。

 技術をうまく説明できないことは、研究成果をうまくアウトプットできないことに直結します。技術者のアウトプットは、技術を世に出す大事な第一歩です。うまくアウトプットして、世の中で使われる道への第一歩を踏み出しましょう。(*1)


*1 世の中で使う機会が得られなかった技術は、企業の内部にうずもれる、いわゆる埋没技術になってしまいます。特許をとっても、「使えない特許」になってしまうのは得策ではありません。

今日のみどころ

 わかりやすく技術を説明するには、まずは、ミクロな視点ではなくマクロな視点からの説明をすることです。また、詳細な技術説明のような技術の中身ではなく、課題や成果のような「外見」の説明が好まれます。

 技術の要点を絞り込んで理解することは特許をとるときにもとても重要です。従来にない技術のポイントを究極に絞り込んだのが「特許請求の範囲」です。

 説明上手になって、技術を上手にアウトプットして世の中に出していきましょう。

 この記事で紹介した上司の考え方は、書籍「上司は思いつきでものを言う (集英社新書)」が参考になります。